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小説 青いスーツケースを追え!

今回は、実験的に小説を書きます。わたしの体験をもとにしていますが、ありのままを書くと守秘義務規定に抵触するおそれがあるので、複数の事例をもとに再構成して執筆しました。

「特に事情気の毒と認められる場合」という概念が旅客を扱う鉄道職員にはある。法令や営業規則にこのような表現がある訳では特には無い。ひょっとすると探せばどこかにあるかもしれないが。旅客本人に悪意が無いにもかかわらず被る損害の大きな時に、根拠規程は無いが、この旅客を救済するための便宜的取扱を行うことがある。その取扱の理由として「特に事情気の毒と認めたため」等と責任者が記録するのである。

成田空港へ行く途中で乗り換えの際にスーツケースを電車内に置き忘れたというお客さんがいた。若い女性で、騒ぎはしないが、だいぶパニックになっていたので、事務室へ御案内して落ち着いていただく。

最初に遭遇した石橋係員が聴取することになった。中途採用で一年目の男性係員である。二年先輩の女性係員の桜井も同席する。

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「遺失物事務所歳時記」「児童養護施設のドタバタ日記」ほか、生活の中で面白いと思った事を共有します。詳しくはプロフィール記事をご覧ください。

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