【まちで仕事をつくる】vol.01 はじまりはシネマ通り
大学のゼミで取り組んだ課題から、すべてが始まりました。舞台となったのは通称「シネマ通り」(正式名称は「旭銀座通り」)。このエリアでは「とんがりビル」や「BOTA coffee」など、リノベーションによる再生が次々と進んでおり、その波に乗るようにして僕らは「空き物件のリノベーションを妄想せよ」というテーマを与えられました。
僕らが目をつけたのは、シネマ通りにある「郁文堂書店」。とんがりビルの隣にひっそりと佇む建物で、シャッターは閉ざされているのに朝顔のグリーンカーテンだけが元気よく咲いていました。その錆びたシャッターと鮮やかな朝顔に心を奪われ、「ここをブックカフェにしたら渋いかも!」という妄想が一気に膨らみました。シャッターの向こうに広がる未知の空間に惹かれた僕らは、好奇心のままにヒアリングに向かいました。
足を踏み入れた郁文堂書店の内部は、時が止まったかのような風景が広がっていました。足元が見えないほど本や思い出の品が積み上げられ、そこにはかつての営みの痕跡が色濃く残っていました。オーナーである原田伸子さんが教えてくれたのは、二代目の店主が入院したことをきっかけに約10年前から営業を止めていたということ。そして、かつてこの場所が「郁文堂サロン」と呼ばれ、斎藤茂吉や井上ひさしなど文化人たちが集い語らう場だったそうです。
伸子さんが出してくれたお茶と漬物に、郁文堂サロンの面影を感じながら、僕らは思いました。この場所をただのブックカフェにするのではなく、文化の香りを継承しながら新たな形で町に開くことができれば、シネマ通り全体が変わるのではないかと。