見えないものを観る仕事
山仕事をするなかで、大事だなぁと思ったこと。
観察、想像、そして創造。
この3つ。
想像力、仕事を安全に行う。
仕事は段取り8分と言うが、
林業も例に漏れず、シミュレーションがとても重要になる。
シミュレーションとは、「ここをこうしたら、こうなる」という思考のこと。
山の中で想像通りに物事が進まないことは、
そのまま命の危機に直結する。
木が狙った方向に倒れなかったら、
自分が木の下敷きになってしまうかもしれない。
止まると思った丸太が、転がり始めたら、
仲間に激突してしまうかもしれない。
そんな、想定外の出来事、
アンコントローラブルな事態に陥らないこと。
そのために、もっと重要なことが、観察すること。
観察力、鮮明で具体的な想像を
例えば伐倒では。
この木はどれくらい重いのか。木の重心はどこにあるか。
枝はどちらに張っているか。隣接木の状態はどうか。
枯れ木はないか、枯れ枝はないか。落ちてきたら怖い。
そして、どの方向だったら、倒れてくれるのか。
クサビを打てば倒れるのか、木回しで回すのか、
それとも、ロープで牽引しなきゃ倒れないのか。
どこなら倒せるだろうか。
あるいは、道づくりでは。
山の傾斜はどのくらいか。地形はどうなっているのか。
水の多いところ、少ないところはどこか。
土が多いところ、少ないところはどこか。
掘ったら岩が出てこないか、出てきたらどうしようか。
土質はどうか、地層はどうか。
いろんなことを考え、見ながら仕事をする。
見えないものの気配を「観る」
けれど、すべてが簡単に見えるわけじゃない。
水がどう流れるのか。
そんなのは、パッと見たところでわからない。
地形を具さに読み取る。
土を触ってみて、湿り気を確認する。
あるいは、雨の日の翌日に山に入れば、水と一緒に土が流れた跡がある。
立木に目を向ければ、成長のいいところは水が多いし、
根元にコケが生えてるところは、水分が溜まっている。
逆にヒカゲノカズラのような植生があれば、そこは痩せた固い岩盤だ。
水はどう流れる?
雨の日の翌日には、水の流れた痕跡が
痩せた土地に生える、ヒカゲノカズラ
「水」という目には見えないものを見るために。
必要なのは、その痕跡を見落とさずに、観ること。
水の気配は、地形から、土の色から、木の成長具合から、下層植生から。
さまざまなものから読み取ることができる。
想像できなきゃ、動けない
観察、想像、そして創造。
最後の「創造」は、想像どおりに身体を、機械を、動かす技術のこと。
仕事を始めたころは、早く仕事を覚えなきゃ、と、
この「技術」ばかりを追い求めていた。
ただ、技術だけではなにもならない。
狙った方向に木が倒せても、木を倒す方向を見極められなければ。
ユンボの扱いに長けていても、適切な路線を選べなければ。
その技術は役に立たない。
逆に言えば、技術は、意図があって初めて有用なものとなる。
3年目になった今、そんなことを思います。
仕事って、そういうもの?
余談ですが、
「見えないもの」を相手にする。
それは、土の中や海の中を相手にする農家・漁師の方々。
自然相手の仕事ならば、それはそうなのですが、
他の職種はどうなのかと考えると、きっとそれぞれの仕事でも、
当てはまるところがあるのかなぁと。
(僕はやったことはないですが)営業などを考えていたら、
「人の心」という見えないものを、
言葉の端々に、あるいは身振り手振りの仕草のなかに、
見出しながら駆け引きをする。
あるいは、接客業でも、
人が求めていることを、瞬間に読み取り、対応する。
村田沙耶香さんの小説『コンビニ人間』では、
コンビニ、というマニュアル化された世界のなかでも、
従業員である主人公の女性が、
お客さんの性別や年代、格好や仕草を、
観て、聴いて、話して、捉えながら、
一片の無駄もなく、対応していく姿が描かれています。
その、洗練された所作を読んでいくと、
仄かに表出する端々を観察し、見えないものに思いを馳せ、
行動に移していく。
元来、仕事とは、そういうものであり、
それを洗練し、磨き上げることで、
プロフェッショナルになっていくのかなぁ、とも思いました。
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つばさ
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