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元蘭プロ選手が語る、オランダサッカーが強い理由

オランダの人口は約1,800万人、面積は約41,500 km²。
日本と比べると、人口は日本(約1億2,500万人)の約7分の1、面積は日本(約37.8万 km²)の約9分の1である。隣国ドイツと比べても、人口はドイツ(約8,400万人)の約5分の1、面積はドイツ(約35.7万 km²)の約8分の1と、オランダは小国である。

しかし、その小国オランダがサッカー界で確固たる地位を築き上げているのはなぜか。ヨハン・クライフ、ルート・フリットといった伝説的な選手をはじめ、90年代にはデニス・ベルカンプ、エドガー・ダービッツ、クラレンス・セードルフなどのスター選手が活躍した。

近年引退した選手としては、ルート・ファン・ニステルローイ、アリエン・ロッベン、ウェズレイ・スナイデル、ロビン・ファン・ペルシーなどが挙げられる。ベルギーやクロアチアなどの他の小国が黄金世代と呼ばれる時期を持つことはあれど、それは一時的なものだ。しかし、オランダは継続的にタレントを輩出し、コンスタントに強さを保っている。現在もフィルジル・ファン・ダイク、フレンキー・デ・ヨング、コーディ・ガクポらが世界の舞台で活躍している。

なぜ、時代を超えて名選手が誕生するのか。

元プロ選手のムスタファ・アハマド氏に話を聞いた。ムスタファ氏は5歳の時に地元のクラブでサッカーを始め、12歳でFCフローニンゲンのアカデミーにスカウトされ、19歳までプレー。その後、当時オランダ2部のSCフェーンダムとプロ契約を結び、4年間プレーした。その後は5部のアマチュアクラブVV Rodenで10年プレーし、故郷フローニンゲンのアマチュアクラブVV Groningenで引退。現在はVV Groningenのトップチーム監督を務め、6シーズン目を迎えている。


*FCフローニンゲン 日本代表・堂安律や板倉がプレーした。オランダ一部

歴史ある優れたサッカーアカデミー

FCフローニンゲン・練習場

「最大の理由は二つあると思う。優れたアカデミーの存在と、一貫したオランダサッカーの哲学だ。オランダ各地にプロチームがあり、優れた選手は必ずスカウトされる。そしてアカデミーには、1950年代、60年代から培われた歴史と経験がある。その蓄積が優れた選手を生み出している。そしてどのアカデミーにも優れた指導者がいることも重要だ。プロクラブだけでなく、アマチュアクラブにも優秀な指導者がいる。どのレベルでプレーしていても、選手にはチャンスと良い指導が与えられる。」

オランダのサッカーアカデミーの歴史は古く、育成システムは20世紀初頭から発展した。特に1950年代以降、クラブチームによる組織的なユース育成が始まり、各クラブが選手を育てる文化が根付いた。

南米では、貧困から抜け出すためにサッカーをする選手が多いが、これは選手主体の育成と言える。選手が自らの力で才能を発揮し這い上がるのだ。

対してオランダでは、クラブが主体となり、全国から才能ある若手を見つけて育成する。この体制は70年以上続いている。そして全国にあるクラブから才能ある選手は、プロクラブに見出され、より良い環境でプレーできるというわけだ。プロでなくてもアマチュアクラブのカテゴリーは10部以上存在し、裾が広い。選手のレベルに適した環境でサッカーができるのだ。また常に試合に出ることが出来るのも大きいだろう。試合の中での経験こそが選手を大きく成長させるのだから。

オランダサッカーが共有するクライフの哲学

1970年代には、ヨハン・クライフ率いるアヤックスが「トータルフットボール」を掲げ、育成の哲学が大きく変革した。ヨハン・クライフはサッカーについて

「テクニックとは、ボールを1000回リフティングできることではない。そんなことは練習すれば誰でもできる。それならサーカスで働けばいい。
テクニックとは、ワンタッチで、適切なスピードで、適切なタイミングで、味方の正しい足にパスを出すことだ。」

という言葉を残した。

ムスタファ氏は、「これこそがオランダサッカーの哲学であり、プロからアマチュアまで全てのクラブがこの考えを共有し、目指している。この哲学こそがオランダサッカーの強さの理由であり、特別な存在たらしめている。」と語る。

FCフローニンゲンのアカデミーで育ち、オランダ2部で4年間プレーした後、アマチュアクラブを渡り歩き、現在は監督を務めるムスタファ氏。彼はオランダ全土に浸透するこの哲学を、指導の際に常に意識しているという。
「技術や走力、フィジカル、ハードワークすることも重要だが、最も大切なのはこの哲学だ。私の考えでは、これを実践できる選手こそが良い選手だ。オランダでは、ただハードワークするだけの選手、上手いだけの選手は評価されない。ボールを正確にコントロールする。正しいタイミングで、正しい場所にパスをだす。必要であればドリブルする。正しい位置にポジションをとる。走らないといけない時に走り、歩かないといけない時は歩く、止まるときは止まる。これがいい選手だ。」と断言する。

これはどの年代にも共通することだそうだ。幼いころからボールを動かす事を教わり、そのための技術、ポジショニングを学ぶ。そしてさらに技術やフィジカルを磨き上げていく。それを教えられる指導者がプロだけでなくアマチュアクラブのアカデミーにも沢山いる。それがオランダサッカーが技術的に優れた選手だけでなく試合で活躍出来るワールドクラスの選手を生みだす理由という。

国全体としてバルサのカンテラのように一貫した哲学のもとにサッカー選手を育てているといっても過言ではないだろう。

どこでもサッカーができる環境

街の公園にはサッカーコートが必ずといっていいほどある

そしてなにより「サッカーはオランダのナンバーワンスポーツだ。子供なら誰もがサッカーをする。クラブだけでなく、学校や公園、ストリートでもサッカーをしている。他国ではさまざまなスポーツがあるけど、オランダにはサッカーしかない。アイスホッケーもあるが、金がかかる。サッカーはオランダ人みなができるスポーツだから」と語る。人口は少なくとも、プレー人口が圧倒的に多いということだ。スポーツの才能ある子供がサッカーを選ぶ。サッカー経験がないだけで、才能があった子供が埋もれることもない。

一貫した哲学のもとに積み重ねてきた歴史を持つアカデミーの存在とサッカー文化と熱量。それこそが小国オランダがサッカー界で確固たる地位を築き上げている理由なのだろう。

日本サッカー

そして日本サッカーについて伺うとこう答えてくれた。

「十年前と比べ日本サッカーはとても発展している。多くの日本人選手がオランダでプレーしているし、代表もワールドカップでスペイン・ドイツを破った。今、オランダリーグでプレーしている日本人選手は、昔の日本人選手と比べ、サッカーを知っている。オランダサッカーでもチームの一員となれている。それは彼らがサッカーとは何かを学んでいるからだ。今プレーしている選手達が、日本に帰ってサッカーを教えれば、さらに強くなる。ただそのためには経験と時間が必要だと思う。」

ここで言う、サッカーを知っているとは、まさにクライフが言うように、表面的な技術でなく、ボールを動かす事、そのための技術、ポジショニングなどのことなのだろう。

日本サッカーについては、もっと話をしていただいたので、さらに詳しく別の記事で書く予定です。


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