10【連載小説】パンと林檎とミルクティー~作家・小川鞠子のフツーな生活日記~
10)紙アイテムは神アイテム
アイドルやアーチストは、コンサートやライブでオリジナルグッズが販売される。ライブでなくても、オンラインショップがある。
3か月間、リアルな恋のように熱病にうかされていたわたしだったが、グッズは買わなかった。
サイン入りバスタオルの抽選にも、申し込まなかった。
欲しいと思わなかったから。
芸能人某氏と同じパーカーも、Tシャツも、トートバッグも、缶バッジも、欲しいと思わなかった。
オリジナルグッズの売り上げが、芸能人某氏の懐を潤ませ、支えているスタッフのギャラにもつながるんだろうとはわかっていたけれど、買わなかった。
なんで買わなかったのか、理由を考えてみた。
ひとつは、欲しいと思わなかったから。
芸能人某氏とお揃いの服を着たからって、何だっていうのか。ふだん着て街を歩いていたら、「ああ、あの人は芸能人某氏のファンなんだなあ」ってバレてしまう。こっぱずかしい。
サイン入りのタオルは、飾っていてもしまっていても、サインは薄くなってしまうのではないかと思った。すごくはかないと思えてしまったから。
そして。
わたしは、サイン本はかなり買う確率が高い。
本の町神保町には、サイン本コーナーが常設している書店がある。ふと思い出していくたびに、好きな作家の本があると我慢しきれずに買ってきてしまう。
本なら、紙なら、買う。
つまり、わたしにとって「紙」アイテムこそが好きなもので、欲しいものなのだ。それ以外のものは、興味が湧かない。
わがままな思考だ。
芸能人某氏が、自叙伝でも出してサイン会でも開こうものなら、前日からでも並んで買いサインをもらっていたと思う。本のおまけに付箋やレターセットがついていたなら、5セットくらい買って、保存用とプレゼント用と何度でも読む用に分ける。
わたしは、服やバッグよりも、本が好き。
次回作のわたしの単行本は、数量限定で付箋をつけられないものか。著者特権で、付箋は10個くらいもらえないかな。
担当編集さんにメールしようかと思ったけど、今日はやめておこう。
出版企画書に、付箋をつけたらいいのにという一文を書き添えようと、決めた。
つづく