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【1000文字小説】おしゃれなあなた

 昼間、人の移動が少なそうな時間を選んで電車に乗って隣の市のスーパーにでかけた帰り道。

 駅に着くと、ちょうど到着した電車から人がバラバラとおりてきた。
 いちばん最後におりてきたおばあちゃんは、おしゃれだった。
 グレーの髪はおだんごにしてすっきり。
 斜めがけにしたバッグは、小ぶり。バッグのまわりとベルトは黒で、バッグ部分はリバティ柄。
 そして、ゆっくりと歩いていくその手には杖を持っていた。
 杖は、バッグとは違う花柄が描かれていた。
 手描きかもしれない。
 自分で描いたのかもしれないし、娘か孫に描いてもらったのかもしれない。
 愛が感じられるリバティ柄だった。
 すっきりとキレイにしているおばあちゃんは、おしゃれだわ、と思った。
 あと30年くらいしたら、あんな風にきれいになりたいなあと思いながらながめた。
 おばあちゃんは、降りた人のいちばん後ろからエスカレーターに乗って、行ってしまった。

 電車に乗り、地元の駅まで6つ。
 車窓から見る外の景色は、強い日の光に照らされて電信柱まで暑そう。
 密室を避けるために開けられた窓からは、暑い空気が入ってくる。
 情熱は必要だけれど、猛暑はいらない。

 駅に降りて改札に向かうときに、ふとすれ違った女性がいた。
 一瞬目を引かれたのが、なぜこんなに引かれたのかわからなかった。
 振り向いてみてしまう。
 なぜ。
 その人は、手作りの立体型の布マスクをつけていた。
 そして、着ているシャツの半そで部分とマスクが同じ黄色に白い花の柄だったのだ。
 おそろい。
 マスクも手づくりで、シャツも手づくり。
 シャツは、手作り感はなくお店で売ってる高級なものに見えた。
 マスクは、きっと何度も洗って使っているけど清潔感があり、しわがない。
 おしゃれだわ、と、彼女は心で叫んだ。

 なぜ、わたしは二人の女性をみておしゃれだわ、と思ったのだろう。
 カラフルなリバティ柄も、シンプルな黄色と白の花柄も、共通点は花の柄。花柄が好きだからおしゃれと思ったのか。
 それぞれの女性は、服装と小物に気を使っていた。統一性があるから、おしゃれだと思った。

「おかえり」
 改札口を出ると、父親が迎えに来てくれていた。
「おとうさん、もしかしておしゃれでその恰好してんの?」
 さあどうかな、と、父親は笑った。
 グレーのポロシャツに、黒いズボン。ゴム長に、透明のビニール傘。
 典型的なお父さんスタイルだった。



※この物語はフィクションです。
実在の名称・団体・個人とは一切関係ありません。


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