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穂生窯別注|TUTU-MUG(つつまぐ)ができるまで

地元、燕市国上山くがみやまで2018年から薪窯を築き、作陶している「穂生窯」という場所があることは知ってはいたものの、今回製作するにあたってはじめて9月になろうかという暑い夏の日に訪問した。
これまでの経緯も含めて、ざっくりと要望をまとめてお話しつつ、どういうものをつくっているのかを聞きながら、ディテールを詰めていく。
最終的に4種に決めて、試作をしてもらうことになった。次の窯焚きで、とのことだった。

およそ数ヶ月後、できたと連絡をもらって伺うと、そのどれもこれもが味わい深かく、4種の数量の振り分けをして、次の窯焚きで総計50個を依頼した。要望する、と繰り返してきたが、日頃やってもいないことを要望したくはないので、それを口頭で確認しながら丁寧に伝えた。大きさにしても、つくっていて気持ちよい大きさもあるのでは、と思うと「もっとこうしてほしい」と言うことはどうしてもためらわれたが、満水500ml以上入るあまりにも大きいマグカップだったこともあり、最後に高さを抑えてほしいことだけを伝えた。容量の問題もあったが、高さを抑えることで横から見た絵が縦長の長方形から正方形に近いものになる。自分でそう思ったことでもあるし、いくつか所有しているキュノワールのマグカップが端正な正方形になっていて、それに習うことのほうがいいように思えた。今後の成形、窯焚きのときにはぜひ見せてほしいので、急なことであっても知らせてほしい旨を伝えてその場をあとにした。

11月下旬、明日成形するのでよかったら来てください、というご連絡をいただいたので足を運んだ。その頃には穂生窯ほなりがまへの道は、ナビに入れなくても不安なく行けるものになっていた。

げんこつよりもひとまわり大きいくらいに計量された土が整列し、それが轆轤の上でペアダンスを踊るようにして、カップに変身していく。自分の足で蹴って轆轤を回す「蹴轆轤けろくろ」と言われるもので、勢いがつくまで足で蹴り、安定的な回転体となったところで、上半身のほうに主導権が移る。まるで楽器を弾いているかのように、リズムをつくるものと旋律をつくるものが融合し、そのあいだに人間がいる。そして人間と轆轤と土が一体化していて、『ちびクロサンボ』のクライマックスで、トラが椰子の木のまわりをぐるぐる走り続けたように、すべてが渾然一体となっている。そこでできたバターこそがマグカップなのだ、という気分にさえなってくる。

これが、蹴轆轤(けろくろ)

クルマで15分ほどで行けることは、急な窯焚きという連絡にも対応できるということだった。12月中旬の日曜日、午後7時半を回ったくらいに営業を終えて駆けつけた。

午後7:37、薪窯の温度計は1272℃

行くとすでに温度計は1,270℃を超えていた。「この温度計が1,290℃になるまであげるんです」と言いながら、頻繁に薪を計量してはくべていく、を繰り返す。

薪窯の上部からは、筒状の炎が吹き出していて、まるでダイナミックな暖炉を囲むかのようであるが、彼女たちはくつろぐ様子などなく、いろんなものに目を配りながらつねに動いている。邪魔にはならないていどにそのときどきに思うことを質問する。

「どのくらいの焼き加減を目指すとかあるんですか?」

ぼくは、その回答によって、薪窯らしさを目指すことは、釉薬が溶けてなくなる手前ぎりぎりまで攻める(焼きをすすめる)ことであると勝手に理解した。

どうなるかわからない。

どうにでもなってしまえ。

ある意味、作為として成形したものを、あえて無作為の世界に連れて行くことで得られる何かがある。神様が、もしいるとしたらそういう世界かもしれないと思ういっぽうで、そこは閻魔様えんまさまがいる世界とも言えるのではないか、と思う。

取り出したばかりの壺は発光する菌類を思わせる佇まい

いくつかのポイントに置いた小さな壺を取り出し、冷やして、その表面の質感に目を凝らす。

窯全体の熱の広がりを把握すべく各所に置かれた壺をブロックをはずして取り出す
つやあり!

マットだともう少しで、ほどよい艶感がオッケーの合図なんだと教えてもらった。都度都度の質問とともに、これまでの来歴のようなものを雑談まじりにお話ししていると、あっという間に2時間ほどが経過していた。

タッチすべき1290℃を超えた瞬間

真冬にも関わらず、圧倒的な炎は周囲の空気すべてを差別することなく温めてくれた。すべての開口部を閉め切り、自然と温度が下がっていくことで窯焚きのすべては終了となる。

それを見届けて帰路についた。

途中、いい感じに進みすぎていて心配との声が印象的だった。いいことが続くと落とし穴がある(かもしれない)。そんな教訓を得る人生における深みについて考えた。


道路の雪はそれほどではないが、道中の木々も雪に覆われていた

四日後に納品できるとの連絡をもらったので、雪がちらつくなか山道にクルマを走らせた。

中にいた猫ちゃんが(ぼくという不審者の)気配を察してこのドアは開かれた
整序された混沌がうつくしい

いい感じに進みすぎている不安は、ただの不安のまま終わり、全般的にいい仕上がりだったとのことで安心した。
薪窯の性質において、すべてがうまくいく保証はなく、希望数量より数個は多めに焼くとのこと。数量のずれはあったものの、そんなことは問題ではなく、試作よりもさらに表情よく、抑えた高さのせいもあってか、フォルム、質感ともによりよいものに仕上がっていた。

どれがよい、ではなく、それぞれによい、ということがよい
外に出て雪で濡れてしまった体を薪ストーブで乾かしている

できあがったラインナップは以下の4種類。

ヌカシロ:糠釉(ぬかゆう)を全体にかけて焼いたもの
アメクロ:飴黒釉(あめぐろゆう)を全体にかけて焼いたもの
ハンハン:灰釉(はいゆう)を上半分だけにかけて焼いたもの
バシバシ:化粧土(白土)をバシバシと打ちかけて焼いたもの

ぐるりと一周してみないと、全体像を把握することはむずかしく、じっさいに手に取ってみていただきたいので、ご来店した際はぜひに!と思う。

素焼き部分が見えていたり、白っぽかったり、灰色っぽかったりする
右は灰と反応してより黒っぽく、左は釉薬が溶けてマットな仕上がりに
すべてのハンハンがとろーりとなりました
渋めのイメージもありつつ、かわいさも垣間見れるのがバシバシ。好きなひとは好きの象徴。
「みんなちがってみんないい」とは言わないが、お好みのものをどうぞ!

穂生窯別注・TUTU-MUG(つつまぐ)
【価格】
4,400円(税込)

【サイズ】
口径:9㎝
高さ:9.5㎝
容量:400ml
重さ:310g

【製作】
穂生窯・ほなりがま
2018年より新潟県燕市国上山(くがみやま)にて、井村 詩帆(イムラ シホ)・廣兼 史(ヒロカネ フミ)のふたりで薪窯を築き、作陶している。

表情もそれぞれですし、ぜひお店で手に取ってお気に入りを選んでいただきたい商品なのですが、遠方でどうしてもむずかしい方はこちらからどうぞ!

とはいえ、イメージや質感の違いによる返品・交換はお客様都合となり、配送料のご負担をいただきますので、それだけご了承ください〜


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