見出し画像

【ツバメroof物語①】(半分フィクション半分ノンフィクション)/石井-珈琲係

~プロローグ~

『飽きた』

 これが11℃の二人の口癖で、私はいつもその言葉に振り回される事になっていた。
 だけど最近では、この「振り回される」という表現は語弊が出てきた様に感じる。
 私自身「振り回される」事を楽しむようになってきたし、何より、私も二人と一緒にいる内に飽きる体質がうつってきたせいかもしれない。
 
 11℃というのは、建築士二人のデザインユニット名で、一人は私の姉でアイ、もう一人は姉の友人のその子さんだ。
 何しろこのユニット名も、元々はミドリスイッチだった様な気がするが、きちんと立ち上がる頃には、いつの間にかミドリスになっていた。しばらくして、『飽きた』とどちらともなく言い出して、気が付けば11℃となった。
 それでも世間には、新しい名前を知らせる事はしない(きっとそんな事考えていない)ので、ふんわりミドリスと11℃の両方が存在している。これでは認知される前にまた名前がきっと変更されるだろう。どこまでも自由で掴まれる前にスルリと抜けてしまう二人なのだ。

 そんな一見頼りなくフワフワしている二人の才能は、突き抜けるものはまだないものの、ひと味違う洗練された魅力がある。かわいいデザインではなく、スタイリッシュかといえばそういうわけでもない。流石、とうなされる愛着あるデザインというべきか。デザインに意味があり、説明を聞くとなるほどと納得するが、そこに押し付けがましさがないので、嫌味がない。とにかく私は好きだ。

 素っ頓狂で常識に囚われない発想をその子さんが始めると、姉のアイが、面白がって、その子さんのアイデアをどんどん引き出し、まとめていくというのがいつものスタイルだ。閃きという直感がデザインにうまく溶け込んでいる。閃いた数は知れず、しかし実際に商品にまで辿りつくのは、ほんの一部になる。途中で頓挫した…というより、デザインしてる間に飽きてしまい、(気が付かない内に)次なる閃きにうつってしまっている。(と思う)

 二人が打合せ中に迷いが生じた時、『一般的な夕子の意見も聞こう』と言われると、なるほど私の意見は、世間一般的なのかもしれないと認めつつも、しょんぼりとするものがあった。そして、だいたい私の意見は、ワカメスープの様にアッサリと『ちょっと違う』と言われてしまうが、それが二人の確信に変わる瞬間であるのも知っている。
 一般受けしたくない、これが基準になっていて、私が納得すると二人は納得しないという、ちょっとややこしい成り立ちだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?