【ツバメroof物語⑤】(半分フィクション半分ノンフィクション)/石井‐珈琲係
お茶を飲み終えて、何かが剥がれた夕子は、この場所が何かになる事に対して受け身で有ることに気がついた。
答えを求めても、だいたい瞬間的生物アイから返ってくるはずはないのだ。ナンセンスな質問だったんだ。
自分で考えて、答えを見つけ出せばいいんだ、と夕子はハッとして…そして呆然とした。
今回に限らず今までもずっと受け身だったかもしれない。楽しそうな事にすぐ首を突っ込んでいたが、それはいつも誰かが用意していたものだったかもしれない。
だけど、自分がどうしたいのか、さっぱり分からないまま、改装作業を続けた。
翌週からの作業に、その子さん以外にも様々な業種の人達がふらりとやってきた。アイの一声でわらわらと集まった人達だ。
大工さんや、主婦、ニートの青年も来た。
皆、何をしにきてるのか分からないけど、アイの持ち前の、楽しそうな事やろうという雰囲気だけで集まった。いわば、楽しそうホイホイだ。
夕子は、手伝いにきてくれた皆にお礼にと休憩タイムに、珈琲をいれたり、手作りのお菓子を差し入れするようになった。
なんとなく自分の存在意義みたいなものがほしかったのかもしれないし、ただ単に、おもてなし根性が染み付いているせいかもしれない。
ある時、アイが、ケーキを頬張りながら、
『ここカフェにして、ケーキ出したらいいやん。』
と唯一の洋間を指差して言い出した。
別次元生物のその子さんまでもが、
『いいね!漆喰ケーキ!』
とチーズケーキのぼこぼこした表面を見ながら言って、コロコロ笑いながら、二人でに盛り上がっていた。
(そういえばガトーショコラは「瓦ケーキ」バナナケーキは「タイルケーキ」と勝手にに名付けられた)
その時、夕子はいつもの『そんなんムリ』ではなくて瞬間的に『ほんまやな〜』と自分でもびっくりするセリフが口をついて出た。この時、思考のクセの様なものがぐにゃりと変換された気がした。
アイはニヤニヤしながら、珈琲を飲んでいる。その子さんは聞こえなかったのか、気にならないのか、『あ〜美味しい〜』とケーキに夢中だった。
何かが剥がれたことで、夕子も瞬間的な発想という武器を手に入れた気がした。
全然ケーキなんて得意じゃないし、料理上手でもない夕子が、カフェ担当珈琲係案が急浮上した。
さて、本当に?
なぜか胸が踊っている自分に驚きつつも、ケーキセットはいくらにしようかと考えていた。
しかし、従兄が使用していた洋間を見ると土埃だらけだし、壁もボロボロだし、天井の照明器具はちゃちいシャンデリア風だし、カフェとは程遠い空間だった。
何十年も貼られっぱなしでセピア色になった氷室京介と目が合いながら、ぐらぐらと心は揺れていた。
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