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茫茫と /じょにー・カド

 「茫茫」(ぼうぼう)
広々としてはるかなるさま(日本国語大辞典)

 最近のわたしだ。

 いや、正しくいうとわたしの毛髪のことである。

 退職を前に有給休暇消化に入った昨年末から、髪を切るのをやめてみた。 それから4ヶ月余り。前も後ろも、ついでにヒゲも茫茫になっている。

 50年近い相棒だが、私の毛髪は付き合いにくい相手だ。

 とにかく硬くて太い。しかも多い。

 中学生のころだったか、床屋のおっちゃんに「ハサミが欠けそう」と言われて傷ついた。

 おまけに黒くてまっすぐだ。

 高校生の頃、勇気を出して初めて美容室に行き、パーマをかけてみたいと言った。美容師のお兄さんに「硬くてかけるのが難しいし、かけても長持ちしない」と遠回しに断られ、すごすご帰った。

 せめて色は、と、大学生のころに市販のブリーチ剤で脱色してみた。  茶色になったが、友人たちには笑われた。ある女子には「ひらがなで『じょにー』って感じ」と爆笑された。エセ外国人みたいということか。

 哀しかった。

 就職して以来、ずっと短髪+刈り上げで過ごしてきた。

 短髪は短髪で伸びるのが早く、頻繁に切らないといけないのは面倒だったが、シャンプーは手がかからず、楽ではあった。

 で、20数年ぶりに髪を伸ばしてみると、なかなか新鮮だ。

 とにかくゴワゴワしており、朝の寝癖は凄まじい。シャワーで濡らしてもゴワゴワさは続き、指が地肌までなかなか届かない。

 硬い髪が額に触れるたびにうざったく、無意識に髪をかき上げることも増えた。

 ただ、こうやって茫茫としているだけで、とても自由を感じるのはなぜだろう。
 風呂上がり、鏡に映る自分の相棒はあちこち好き放題に広がっている。  

 「あんたも好きなように進んでいったらいいよ」。そんなふうに言ってくれている気がする。

 広々としてはるかな世界の先の未来に何があるのか。

 もうしばらく、毛髪が伸びていくさまを見ていきたい。


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