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6月は「毎日チョウゲンボウ」6/5更新分

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※「毎日チョウゲンボウ」は1990年に平凡社より刊行された「チョウゲンボウ(Kestrel)優しき猛禽」をWeb用に再編集したものです。

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さらに足を進めると1羽のチョウゲンボウが舞い立った。やはりここにもいた。しかし、巣はどこにあるのかわからない。私は崖沿いをぐるっと廻って、崖の下まで垂れ下がるフジの枝をよじ登って崖の上に出た。

眼前に雪化粧の南アルプスが連なり、眼下には2つの川が作り出した扇状地が拡がっていた。かなり強い風が崖の上を舞っていたが、私はそこに座りこんだ。

しばらくして、南アルプスの稜線から、1羽の鳥がまっすぐこちらに向かってくるのに気がついた。何の鳥だろうと双眼鏡で覗いてみて、私ははっとした。チョウゲンボウだ。

チョウゲンボウはぐんぐんスピードを増し、私のすぐ近くまでくると、川から吹き上げてくる風に乗って上空をゆっくり旋回し、「キキキキキーッ」と鳴くと、羽をつぼめて一気に下まで急降下していった。

もしや?私はあわてて崖を降り、橋を渡り、崖を一望できる対岸に出た。

そして双眼鏡に目を当てて、私は思わず「あった!」と叫んでしまった。何と意外にも、私が今まで座っていた崖の下にぽっかりと小さな穴があいている。しかもその穴の入り口には、雄か雌のどちらかのチョウゲンボウが、のんびりと翼を休めてとまっているではないか。

優しき猛禽

私は今まで見つけていたすべてのフィールドを放擲して、この小さな崖のチョウゲンボウに観察を集中した。このフィールドはすべての点において条件が整っていた。

何よりもまず、崖の規模が比較的小さいことが、私の気持ちを楽にしてくれた。また、崖下の川の水量も、豊富な割には浅瀬が拡がっていて、巣穴のすぐ近くまで歩いていけたし、下宿から近いことも貧乏学生には大いに助けとなったのである。

私はまず、彼らを知ることに努めた。時間の許す限り、雨の日も風の日も手弁当を持って観察に出かけた。

チョウゲンボウはすでに求愛時期のまっただ中に入っていて、行動範囲は崖と巣穴が中心だった。そしてある日、私は出会いの時よりもさらに心に残るシーンを目撃したのである。

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著者紹介:平野 伸明(ひらの・のぶあき)

映像作家。1959年東京生まれ。幼い頃から自然に親しみ、やがて動物カメラマンを志す。23才で動物雑誌「アニマ」で写真家としてデビュー。その後、アフリカやロシア、東南アジアなど世界各地を巡る。38才の頃、動画の撮影を始め、自然映像制作プロダクション「つばめプロ」を主宰。テレビの自然番組や官公庁の自然関係の展示映像などを手がける。

主な著書に「小鳥のくる水場」「優しき猛禽 チョウゲンボウ」(平凡社)、「野鳥記」「手おけのふくろう」「スズメのくらし」(福音館書店)、「身近な鳥の図鑑」(ポプラ社)他。映像ではNHK「ダーウィンが来た!」「ワイルドライフ」「さわやか自然百景」や、環境省森吉山野生鳥獣センター、群馬県ぐんま昆虫の森、秋田県大潟村博物館など各館展示映像、他多数。
→これまでつばめプロが携わった作品についてはこちらをどうぞ。

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