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6月は「毎日チョウゲンボウ」6/18更新分
※「毎日チョウゲンボウ」は1990年に平凡社より刊行された「チョウゲンボウ(Kestrel)優しき猛禽」をWeb用に再編集したものです。
生命を賭けた闘い
春のおとずれは川の水のぬるみとともにやってきた。
食器を洗うのにも、衣服を洗濯するのにも、あれほど川の水に手をぬらすのが苦痛だったのに、いつの間にかその冷たさを感じなくなっていた。
そして、崖のチョウゲンボウの求愛にも一段と熱がこもってきた。雄はとまり場の枝からいきおいよく飛び立ったかと思うと、あっという間に姿を消し、いつの間にか獲物をぶらさげて戻ってくる。
雌は巣穴の入り口や崖のとまり場で雄の帰りを待つ。目の良い私がどんなに目をこらしていても見つけることができない雄の姿を、雌ははるかかなたに見つけて、嬉しそうに甘え鳴く。
時にはツグミくらいの大きな獲物を雌に持ち帰り、口うつしで雌に渡す。そのまま交尾におよぶこともあり、興奮気味の雄と雌の叫び声があたりにこだますると、人里はもうすっかり春一色だ。
ところで、順調な右上の巣穴の番にくらべて、左下の巣穴にはいぜんとして雄も雌も姿を見せていない。これはいったいどうしたことなのか。
もしかしたら、もうひとつがいは今年はこの崖の巣穴にはこないのだろうか。そう思いはじめた3月半ば、ようやく左下の巣穴へ新たな雌がやってきた。
遅れてやってきた雌は、一気に巣穴を含む崖でのなわばりを確保しようと、キィキィ激しく鳴きながら崖の周りを飛び続ける。
それに応じて先住の雌も負けじと応戦、空中での追い合いが見られるようになった。翌々日、雌に呼応するかのように、新たな雄も崖に現れた。
しかし、不思議と雄はなわばり争いに加わる様子がない。それは先住の右上の巣穴の雄も同じようで、どうやらチョウゲンボウの巣穴をめぐる争いは、雌同士によって行われるようだった。
争いは次第に激しさを増してゆき、はじめは追いつ追われつ、一進一退の展開を見せていたが、いつの間にか先住の雌がはっきりと優勢になり、あとから崖にきた雌はいつも追い立てられ、やがて先住の雌は、時にはあとからきた雌が使おうとしている左下の巣穴の入り口にとまり、崖全体に相手を寄せつけないという徹底攻撃ぶりであった。
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著者紹介:平野 伸明(ひらの・のぶあき)
映像作家。1959年東京生まれ。幼い頃から自然に親しみ、やがて動物カメラマンを志す。23才で動物雑誌「アニマ」で写真家としてデビュー。その後、アフリカやロシア、東南アジアなど世界各地を巡る。38才の頃、動画の撮影を始め、自然映像制作プロダクション「つばめプロ」を主宰。テレビの自然番組や官公庁の自然関係の展示映像などを手がける。
主な著書に「小鳥のくる水場」「優しき猛禽 チョウゲンボウ」(平凡社)、「野鳥記」「手おけのふくろう」「スズメのくらし」(福音館書店)、「身近な鳥の図鑑」(ポプラ社)他。映像ではNHK「ダーウィンが来た!」「ワイルドライフ」「さわやか自然百景」や、環境省森吉山野生鳥獣センター、群馬県ぐんま昆虫の森、秋田県大潟村博物館など各館展示映像、他多数。
→これまでつばめプロが携わった作品についてはこちらをどうぞ。
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