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6月は「毎日チョウゲンボウ」6/4更新分

※「毎日チョウゲンボウ」は1990年に平凡社より刊行された「チョウゲンボウ(Kestrel)優しき猛禽」をWeb用に再編集したものです。

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山梨県内には他にも同じような崖がいくつもある。特に富士川沿いに続く七里岩台地は、川の浸食によって作られた大絶壁で、大きいものは高さ130m、幅250m以上もあり、それらが延々と屏風のように連なっている。

そんなところでチョウゲンボウを見つけても、私にはとても撮影などできる自信はなかった。

それにチョウゲンボウは警戒心も強かった。神経質で繊細な猛禽類なのだから、当然といえば当然なのかもしれないが、彼らに下からそっと近づいても毅然として飛び去っていった。

私は予想以上に彼らを捉えることのむずかしさを知った。そしてそれは、以後続く、彼らと私との距離と警戒心をいかに縮めて除去するかの、長い長い道のりのはじまりでもあったのである。

ともかく、あきらめたらそれまでだ。私はどこかに必ず撮影条件のよいフィールドがあるはずだと思い直して、地図と双眼鏡をたよりに崖沿いを歩いて探した。

暦の上ではとっくに春を迎えていたが、時おり、南アルプスの甲斐駒ヶ岳や鳳凰三山から、雪交じりの冷たい風が吹きつける。

その中で、ひとつ、またひとつとチョウゲンボウの生息地を見つけることができた。しかし、条件の良い巣穴にはめぐり会えなかった。

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▲みぞれが降るなか、鳴きかわす雄と雌

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▲雪のなか、じっとたたずむ雄。
降りつもる雪はなにもかも覆いつくしてしまう

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▲雪のなかへ逃げ込んだネズミを追って、
チョウゲンボウも雪のなかへ飛びこむ

身近に見つけたフィールド

やがて、川下から吹く暖かい風が春の香りを運んできた。

やはりチョウゲンボウを追うのはむずかしいのかもしれない。半ばあきらめかけていた時、ふといつも通り過ぎる小高い丘の道の下にも崖があったことを思い出した。

そこは甲府市に近い富士川と御勅使川の合流点で、信玄提と呼ばれているところであり、その一角に赤岩という大きな崖がある。

今日はあそこへ行ってみよう。私は崖側の富士川の上部に車を停め、崖に沿って歩いた。遠くで見るとさほどではなかったが、間近で崖を仰ぐと、やはり崖は高い壁となってそびえたっていた。それでも、今まで見てきた崖よりは規模もかなり小さい。

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著者紹介:平野 伸明(ひらの・のぶあき)

映像作家。1959年東京生まれ。幼い頃から自然に親しみ、やがて動物カメラマンを志す。23才で動物雑誌「アニマ」で写真家としてデビュー。その後、アフリカやロシア、東南アジアなど世界各地を巡る。38才の頃、動画の撮影を始め、自然映像制作プロダクション「つばめプロ」を主宰。テレビの自然番組や官公庁の自然関係の展示映像などを手がける。

主な著書に「小鳥のくる水場」「優しき猛禽 チョウゲンボウ」(平凡社)、「野鳥記」「手おけのふくろう」「スズメのくらし」(福音館書店)、「身近な鳥の図鑑」(ポプラ社)他。映像ではNHK「ダーウィンが来た!」「ワイルドライフ」「さわやか自然百景」や、環境省森吉山野生鳥獣センター、群馬県ぐんま昆虫の森、秋田県大潟村博物館など各館展示映像、他多数。
→これまでつばめプロが携わった作品についてはこちらをどうぞ。

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