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6月は「毎日チョウゲンボウ」6/2更新分

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※「毎日チョウゲンボウ」は1990年に平凡社より刊行された「チョウゲンボウ(Kestrel)優しき猛禽」をWeb用に再編集したものです。

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さらに私は行動圏を拡大するため、何とか動くことは動くというポンコツ車を購入し、富士山麓や八ヶ岳清里高原、南アルプススーパー林道へと通いつめた。

やがて甲府盆地のうだるような暑い夏が過ぎ、ツバメが舞う空にもほのかな秋の気配が忍びよってきた。そして、いつの間にかモズの高鳴きもやんだある秋の日に、私は1羽の鳥に出会ったのである。

鳥の名はチョウゲンボウ

遠くに尾根を連ねる雄大な南アルプスに秋の日の太陽が沈もうとしている。斜めに伸びた夕日が刈り入れ間近の稲穂を金色に輝かせ、そこに群れる無数のスズメたちをシルエットに浮かび上がらせている。

私は秋の日の夕暮れ、甲府の南を流れる笛吹川のかたわらにたたずみ、スズメたちを見つめていた。

季節は確実に移りつつある。今、目の前で稲穂をついばむスズメたちはもうすぐ落穂拾いに夢中になるのだ。

さて、そろそろ下宿に戻ろうか。

その時だった。いきなり私の背後から「ビシューッ」と風を切る凄まじい音がしたかと思うと、目の前のスズメたちが「ザアーッ」と羽音を立てて波のようにうねった。

そこに1羽の鳥が猛スピードで突っ込んでいった。「バサッ」「チュンチュンチュン!!」狂ったように逃げまどうスズメたちをよそに、やがてその鳥は足にしっかりと1羽のスズメをつかんで、私の目の前を悠々と飛び去っていった。

今の鳥はいったい何という鳥だったのか。タカみたいだった。でも翼の先はまるくなく、むしろツバメのように尖って見えた。尾羽も長く伸びていた。
小さめで茶褐色のタカ……。オオタカでもない、ハイタカでもない、ツミ、チョウゲンボウ……。

そうだ、今のは確かにチョウゲンボウだ。間違いない。

それにしても何という凄まじい一瞬だったのだろう。ひとつの生命がひとつの生命を、まるで炎が包み込むように襲い、奪い去っていったのだ。

チョウゲンボウとはいったい何者なのだ。

私はあまりにも強く印象に残ったこの時の出会いを契機に彼らに興味を覚え、心を奪われはじめたのである。

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著者紹介:平野 伸明(ひらの・のぶあき)

映像作家。1959年東京生まれ。幼い頃から自然に親しみ、やがて動物カメラマンを志す。23才で動物雑誌「アニマ」で写真家としてデビュー。その後、アフリカやロシア、東南アジアなど世界各地を巡る。38才の頃、動画の撮影を始め、自然映像制作プロダクション「つばめプロ」を主宰。テレビの自然番組や官公庁の自然関係の展示映像などを手がける。

主な著書に「小鳥のくる水場」「優しき猛禽 チョウゲンボウ」(平凡社)、「野鳥記」「手おけのふくろう」「スズメのくらし」(福音館書店)、「身近な鳥の図鑑」(ポプラ社)他。映像ではNHK「ダーウィンが来た!」「ワイルドライフ」「さわやか自然百景」や、環境省森吉山野生鳥獣センター、群馬県ぐんま昆虫の森、秋田県大潟村博物館など各館展示映像、他多数。
→これまでつばめプロが携わった作品についてはこちらをどうぞ。


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