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野鳥写真集「小鳥のくる水場~ぞうき林の小さなオアシス~」第3回 #全文公開チャレンジ

武蔵野のぞうき林での小さな水場――人にとってはなんでもない水たまり。でもそこは、野鳥たちにとっての小さなオアシスでした……。
第2回では、普段はめったに見られない、美しい羽色をしたサンコウチョウや、タカの仲間のツミも水場に来てくれました。
第3回、季節は夏。鳥たちは子育てに大忙しです。

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「小鳥のくる水場 ぞうき林の小さなオアシス」

1984年発行
著・平野伸明

過去の回はこちら⇒第1回第2回

それぞれの子そだて

 6月のすえ、ぞうき林は、すっかり若葉がおいしげり、初夏のかおりをただよわせています。小鳥たちの子そだても、いまがまっさかりです。ひとあし早く、ヒナをそだてたシジュウカラにつづいて、オナガ、ヒヨドリ、イカル、サンコウチョウなどのヒナも、つぎつぎと誕生しました。ヒナたちのえささがしにおわれる、親鳥のすがたが、あちこちで見られます。

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▲ぞうき林に作られたサンコウチョウの巣
なかには、4羽のヒナが生まれています。オスもメスも、えさとりに大いそがしです。

 ツミも、水場から2キロメートルほどはなれた、アカマツの大木の上で、4羽のヒナをそだてていました。地上30メートルのこずえでした。

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▲このぞうき林で、はじめて確認されたツミの巣
メスは、かたときもヒナたちのそばをはなれません。ここでも、4羽のヒナが、すくすくとそだっていました。

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▲巣だちしたツミの若鳥

 この林にすむ小鳥たちにとって、ツミは、おそろしい存在です。ツミの主食は、小鳥です。とくに、巣だちしたばかりの小鳥のヒナは、よいえものなのです。

 ぼくも、ツミのオスが、シジュウカラの若鳥をつかまえてきたところを、目撃したことがあります。「もしかして、水場に来ていた、あの元気のよいヒナたちの1羽では?」そう思うと、きゅうに悲しくなってきました。でも、これも、自然界のきびしいおきてです。

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▲とらえたシジュウカラの若鳥の羽毛をむしるツミのオス
水場から1キロほどはなれた倒木の上で、見かけた光景です。

 7月のはじめ、それぞれのヒナは、巣だってゆきました。ぞうき林は、まい日雨ばかりです。あれほどにぎわった水場も、雨水で流されてしまいました。でも、これなら、鳥たちも、とうぶん水にこまらないでしょう。

秋・にぎわいのとき

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▲秋の水場
ぞうき林は、すっかり色づいています。

 暑い夏がやっとおわりました。さわやかな風がふきあける9月中旬、ぼくは、ふたたび、水場を作った林をおとずれました。秋のぞうき林は、木の実など、鳥たちの食べものがたくさんあり、活気にあふれています。

 春から夏にかけて、夫婦で行動していたオナガやシジュウカラも、いまは、十数羽のむれを作っています。シジュウカラやコゲラ、メジロ、ヒガラなどは、まじりあって、50羽ほどの、大きなむれになることもあります。

 山でくらしていたカケスやビンズイも、豊富なえさを求めて、この里の林におりてきました。

 10月下旬、さらに、ツグミ、シロハラ、ジョウビタキなどがくわわり、ぞうき林は、にぎやかさをましました。冬鳥たちが、あたたかい地方で冬をこすために、北の国からやってきたのです。この鳥たちの多くは、ぞうき林の紅葉がおわり、葉が落ちる12月の中旬まで、この林でとびまわり、えさをとります。

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▲落ち葉を集める農家のおばさん
ぞうき林の落ち葉は、林のたいせつな肥料となります。この作業がはじまると、もう冬です。

 武蔵野の秋と冬は、乾燥していて、雨があまりふりません。鳥たちは、豊富にある食べものにくらべて、水の確保には、こまっているようです。冬の日、道ばたにできた、しもばしらを食べる鳥たちを見たことさえあります。よほど、水にこまっていたのでしょう。

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▲冬、車の「わだち」にできたしもばしらを食べにきたツグミのむれ
水不足の鳥たちは、しもばしらを食べて、のどのかわきをしのぎます。

 ぼくは、また、水場をおとずれて、水をたしてやるようになりました。11月にはいると、冬型の気圧配置が、しだいに強まり、いつもの年のように、雨がふらない日が続くようになりました。

(次回へつづきます)

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著者紹介:平野 伸明(ひらの・のぶあき)

映像作家。1959年東京生まれ。幼い頃から自然に親しみ、やがて動物カメラマンを志す。23才で動物雑誌「アニマ」で写真家としてデビュー。その後、アフリカやロシア、東南アジアなど世界各地を巡る。38才の頃、動画の撮影を始め、自然映像制作プロダクション「つばめプロ」を主宰。テレビの自然番組や官公庁の自然関係の展示映像などを手がける。

主な著書に「小鳥のくる水場」「優しき猛禽 チョウゲンボウ」(平凡社)、「野鳥記」「手おけのふくろう」「スズメのくらし」(福音館書店)、「身近な鳥の図鑑」(ポプラ社)他。映像ではNHK「ダーウィンが来た!」「ワイルドライフ」「さわやか自然百景」や、環境省森吉山野生鳥獣センター、群馬県ぐんま昆虫の森、秋田県大潟村博物館など各館展示映像、他多数。
これまでつばめプロが携わった作品についてはこちらをどうぞ。


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