エデン条約編はなぜ面白いのか、構造から考察してみた
エデン条約編、おもしろすぎません????
こんにちは、働きながら漫画執筆やシナリオライティングをしています藤崎ツバメと申します。
ブルーアーカイブ、本当に面白いですよね。
「ソシャゲのシナリオなんてたいしたことないでしょ〜」と侮ってい私ですが、
エデン条約編を終える頃には嗚咽と涙で前が見えなくなっていました。
ハナコ面白&かっこよすぎる!!!
ミカちゃんサオリちゃん かわいそう&かわいいすぎる!!
放課後補修部最高!!!!!!!
溢れ出る情熱が止まりません。
しかし、エデン条約編の面白さって、具体的になんなんだろう、、??
うまく言語化できれば後学に役立つはず。
いちシナリオライターとして、この点について考察してみました。
ここでは、エデン条約編の面白さを「構造」「テーマ」「テクニック」の部分で考察していきたいと思います。
(ほんとはキャラ熱弁で50000字くらい書きたいのですが...)
※注意書き
・エデン条約編のネタバレを全開で執筆しています。エデン条約編をプレイ後にお読みいただくことを推奨します。
・「どこが面白いか」「なぜその部分が面白いか」について解説していきますので、ストーリーの詳細は大分省きます。あらかじめご了承ください。
■エデン条約編の面白さの構造
第1章 裏切り者さがし
エデン条約編第1章の面白さは、「裏切り者探し」です。
ストーリーは「放課後補講部」という部活の担任になることからはじまりますが、この部活は「トリニティの裏切り者を探す」ために作られたものであり、犯人探しを手伝ってもらうために招かれたと明かされます。
「裏切り者探し」というのは、サスペンス映画の王道展開です。
このエッセンスが取り込まれた作品としては、集められた翻訳家から「作品を公開する」と強迫してきた裏切り者をさがす「Les traducteurs(邦題:9人の翻訳家〜囚われたベストセラー〜)」などがあります。
登場人物それぞれに怪しい点があり、誰が犯人か一緒に考えてしまう...
読者を引き込む非常に面白い展開です。
ブルーアーカイブの明るい雰囲気とのギャップに驚いた方も多いのではないでしょうか。
蛇足ですが、この推理の過程は登場人物それぞれのキャラクターの来歴や人となりを知ることにも役立ちます。
ハナコは実は政治が嫌になり実力を隠していただけでスーパー天才少女だった、アズサはいじめられていた生徒のために戦っていただけだった...等、キャラクターに引き込まれた方も多いのではないでしょうか。
この「裏切り者探し」を第一章に持ってきたことで、キャラクターや世界観を解説することに大いに役立ったと感じています。
第2章 落ちこぼれたちの逆襲
第二章の面白さは、放課後補講部が逆襲していくところにあります。
「放課後補講部」がトリニティの裏切り者を探すためのものであること、また一人でも落第が出れば全員退学となることを知った放課後補修部一同。
さらには、アズサが「自分はアリウスからのスパイであり、最終試験日にアリウスの襲撃がある」と告白します。
試験を受けることさえ絶望的な状況。
すべて解決し全員が合格するため、ハナコが叡智をふるい逆襲を開始します。
落ちこぼれたちが強者に反逆するというのは王道の展開です。
類似の作品では、「ルーキーズ」「モンスターズインク」などがあります。
ひとクセもふたクセもある仲間たちが協力してエリートたちにあっといわせる、痛快さとかっこよさは古くから親しまれてきています。
蛇足ですが、第2章の核は間違いなくハナコの存在です。
彼女はその才知からトリニティの中核を担うような人物でしたが、
政治闘争や人間の悪意に疲れ果て、自ら落ちこぼれを演じるようになります。
しかし、このままでは仲間たちも含め退学の危機に瀕してしまうと知ったハナコ。
彼女の才知を最大限活用し、
シスターフッドを同人、アリウスの襲撃を阻止し、
果ては試験合格まで果たしてしまいます。
落ちこぼれを演じるひょうきんな天才というのも、古くから愛されてやまないキャラクターです。
落ちこぼれの逆襲を実現する説得力を持たせるために、
彼女のような存在は必要不可欠といえます。
第3章 戦争と仲裁
第3章の面白さは、「戦争と仲裁」にあります。
無事結ばれるかに見えたエデン条約ですが、アリウスの襲撃により瓦解してしまいます。
双方、裏切られたと誤解し亀裂を深めるゲヘナとトリニティ。
誤解を解き、事態を収拾するため先生が動き出します。
「戦争(戦い)」は物語の基本要素です。
戦争といっても中身は多様で、
主体は国家だけでなく地域、コミュニティ、個人間だったり、
戦い方も武力だけでなく言論、ビジネス、スポーツ、恋愛とさまざまです。
全てに共通しているのが、主義主張がちがう主体があり、利害が反し対立が生まれていること。そこでぶつかり合い、キャラクターたちが動き出すエネルギーが生まれます。
物語とは「なにかと戦うこと」と集約してもいいくらいでしょう。
(主人公の葛藤も「自分との戦争」ですね!)
エデン条約編は「トリニティ」「ゲヘナ」「アリウス」の3校の対立が話の軸になっており、本章の目的はこの戦争を仲裁することになっています。
戦争の一つの立場にたち、勝利で飾るという作品もありますが、
エデン条約編は戦いを仲裁するという手法を取りました。
第3章で仲裁役を担ったのは、ヒフミと先生でした。
この二人は後述するテーマを担う存在です。
ヒフミは、ただ一人ハッピーエンドを望む(=全ては虚しい、というを考えを否定する)存在でした。
また、先生はただ一人他人を信じる(楽園のパラドックスを否定する)ことができる「大人」でした。
この二つのテーマは、戦いを諫めてこそ際立つテーマです。
他人を信じる、現実に足掻くというエッセンスがあるからこそ、
仲裁という形になったのでしょう。
蛇足ですが、仲裁は難しい進め方です。
簡単に戦争は仲裁できませんし、そもそもあっさり仲裁できるような戦争は、物語のガソリンとなる「対立」のエネルギーが不足しています。
仲裁役は特殊な存在であり、かつ、大変な努力をする必要があります。
同様に仲裁を取り扱った作品はもののけ姫があります。
もののけ姫のアシタカは自然の怒りと人間の事情の両方を知る人間でした。
双方の痛みを知るゆえに、自分を犠牲にすることができた。
そんな姿を見たからこそ、自然と人間の側で折り合いをつけることができました。
生徒はすべて信じる対象とする先生だからこそ、この選択ができたのかもしれませんね。
第4章 落伍者たちのやり直し
第4章は、ミカとサオリが人生を取り戻すお話です。
調停式襲撃の騒乱も落ち着き、体制を立て直そうとするトリニティ。
セイアとの関係修復をはかるミカでしたが、ひょんなことから誤解が生まれ、自分は許されていないと絶望しサオリへの報復を誓います。
一方、任務を失敗し組織ら追われるサオリですが、大切な姫(アツコ)をベアトリーチェに攫われてしまいます。
先生の助けを求め救出に向かうサオリ一行ですが、そこにミカが現れサオリの行く手を阻みます。
激しくぶつかりあうも、虚無感に苛まれるミカとサオリ。
二人を先生は助け、人生はやり直せる、大人として生徒を信じ支えると励まします。
4章では、これまで悪役として描かれていたサオリとミカにスポットライトが当たります。
サオリの悲しい出生、ミカの心理描写に心打たれた方も多いのではないでしょうか。
過ちや環境からたくさんのものを失ってしまった二人が、
先生の助けによって再起の一歩を踏み出し、エデン条約編は幕を閉じます。
同じ「落伍者たちのやり直し」の構造として、「トレインスポッティング」「時計仕掛けのオレンジ」などがあります。
過ちや不運から全てを失い絶望した人間が、なんとか生きる意味をとりもどしたい、その姿にエネルギーを得られます。
全ての生徒を信じ支えたい。
サオリとミカを救ってこそ、この物語を語り切ったと言えるのかもしれません。
■エデン条約編のテーマ(2つの対比)
面白さの骨組みを作るのは前述した「構造」ですが、やはりその中身を担うのはテーマです。
エデン条約編には、下記2つの対比をテーマとして扱っています。
①「すべては虚しいもの」と「あがくこと」
②「楽園のパラドックス」と「信じること」
前述した構造は、この2つのテーマを引き立てるためにあるといっても過言ではありません。ここでは、そのテーマの詳細を解説していきます。
「すべては虚しいもの」と、「あがくこと」
エデン条約編で繰り返し触れられていたのが、「すべては虚しいもの」という教義でした。
ただアズサはこれに対し、「だとしても、今日最善を尽くさない理由にはならない」と反論します。
無理難題をふっかけられる補修試験、決裂するエデン条約、「人殺し」の汚名・・・
この世界にはたくさんの理不尽が渦巻いています。
すべては虚しい。
どれだけ努力をしても、望んだ結果は得られない・・・
現実世界を生きる我々も深く共感できる事実ではないでしょうか。
しかし、アズサは「世界は虚しいもの」という事実を受け止めつつ、
足掻く姿勢を持っていました。
ハナコはこの姿勢に心打たれ、もう一度トリニティの政治と悪意の渦と戦う決意をします。
また、ヒフミは「ハッピーエンド」を求める強い決意を持ちます。
このシンプルなテーマを伝えるため、「落ちこぼれたちの逆襲」「戦争と仲裁」という厳しい構造が用いられたのではないでしょうか。
「楽園のパラドックス」、「信じること」
エデン条約編は「楽園のパラドックス」というテーマの提案から始まります。
楽園の存在を証明するには、楽園に行かなくてはいけない。
だが、楽園から出てきてしまったら、それはもう楽園ではない。
エデン条約編はこれを「他者とのコミュニケーション」に置き換えています。
他人の心を理解したと証明するなら、その人の心をすべて知るしかない。
だが、他人の心をすべて知ることができたら、それはもう他人ではない。
楽園の存在が証明できないように、他者の心を理解することは絶対にできないと提案します。
これに対し先生は、「ただ信じる」という答えを提案します。
楽園の存在も、他者の心も証明できることはない。
なら、ただ信じるしかない。
終わりのない疑心暗鬼をやめ、大人として生徒を信じるという回答を先生はします。
このテーマを強調するため、お話の構造は疑心暗鬼だらけでした。
裏切り者探しの放課後補修部、トリニティ内部の派閥対立、
ゲヘナとトリニティの敵対関係・・・
アズサやミカの心中さえも、あらゆる疑いにさらされていました。
そんな中、唯一生徒を無条件で信じられる先生を強調するために、
「裏切り者探し」「戦争と仲裁」「落伍者たちのやり直し」
という構造が選ばれたのではないでしょうか。
■エデン条約編の面白さのテクニック
ここまでは面白さの骨組みとなる「構造」、またその名となる「テーマ」についてお話ししました。
構造とテーマは物語のキモですが、同じくらい大事なのはつかみとなる装飾と技術です。
最後に、面白さのアクセントとなる「テクニック」について解説したいと思います。
青春要素
いきなり陳腐ですが、青春要素は強く人を惹きつける要素です。
スポーツ、恋愛、日常と、青春要素で人気を博した作品は数知れません。
青春要素が全てではありませんが、
重いテーマや世界観をストレスなく語っていく上で多いに役立っていると考えます。
政治構造
政治構造は各キャラクターのスタンスや対立をわかりやすくします。
エデン条約編では、トリニティ・アリウス・ゲヘナという3つの学校を
主要な政治構造として描いていました。
最初に社会構造を説明しておくことで、
「このキャラは○○所属だから大体こんな生い立ちでこんな考えなんだな・・・」
ということを読者にわかりやすくさせます。
また、各勢力同士の対立もわかりやすくなり、説得力も生まれます。
(個々の対立を描くには来歴を語らなくてはなりませんが、所属同士の対立ならすんなりと読者に理解させることができますね。)
エデン条約編が最初にこと細やかに政治構造を描いたのは、
後々のキャラクター同士の対立や価値観をわかりやすくするためだったと考えます。
ひとりの特別な存在(=テーマの代弁者)
古今東西、物語の推進力は一人の特別な存在が担っています。
それは主人公であることが多いですが、特別な脇役が担うこともあります。
物語はなるべくしてなる事実の羅列でなく、
キャラクターたちが起こした行動の積み重ねです。
集団で特異なキャラクターが行動を起こすことで、
物語は進みテーマが浮き彫りになります。
その特殊な存在は、テーマの代弁者とも言えます。
エデン条約編においては、ただ一人の大人であり、他者を信じることができる
先生がそれに該当します。
もし先生がいなければ、疑心暗鬼の果てに悲惨な結末を迎えていたでしょう。
諸悪の根源(=悪者の救済)
これも陳腐ですが、諸悪の根源はキャラクターの救済にもってこいです。
これはエデン条約編ではベアトリーチェが該当し、
救済対象はサオリたちアリウススクワッドです。
残酷なテロをおこなったアリウスの生徒たちですが、
それはベアトリーチェの歪んだ教育によるものだとわかります。
アリウスの生徒たちの意思によるものでないとわかり、
サオリたちへの見方が変わります。
もしベアトリーチェがいなければ、
サオリたちの救済は難しかったでしょう。
(その点、ミカは諸悪の根源がおらず、なかなかイメージ改善に苦労したと思います・・・)
■終わりに
以上、エデン条約篇の面白さについて書いてきました。
テーマとそれを引き立てる構造、二つが物語の基盤を支えていること、
また「構造」は結構似たものが多いのかな?という点を見つけることができました。
ただ、物語のテーマと構造だけを真似たところで、魅力的な物語はできません。
魅力的な「キャラクター」がいてこそ、物語が生きてくるのだと考えています。
また次は、「キャラクター」の魅力について書いてみたいと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
藤崎ツバメ
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