姿を消した猫 ~一人と一匹の話~
行政書士試験が行われる11月のこの時期。
この時期になると
ある「猫」の事を思い出します。
それは十数年前、この年に行われる行政書士試験に合格しよう心に決め、
試験の勉強に多くの時間を費やしていた年。
そして行政書士試験に合格した年。
その猫とは以前住んでいた建物の目の前にある
自動販売機前で出会いました。
春先の穏やかな日の事でした。
資格試験勉強の合間に自動販売機で缶コーヒーを買い
その場で飲むのが息抜きとなっていた私の前に
可愛いキジトラ猫が現れたのです。
その猫が警戒したのはその日だけ。
次の日から
自動販売機の前にいる私に身体をすりつけて甘えてきました。
いったいどこから来るのか、
私が来ると
毎日毎日、雨の日でも動販売機の前に現れる猫。
そしていつも私の隣でちょこんと座り
ニャーニャーと鳴く猫。
何かを欲しがるわけでもなく
ただ横に居るだけ。
私はだんだんこの猫に会うのが楽しみになりました。
資格勉強の合間の楽しみ。
何だかこの猫に励まされてる気がしました。
そして、時が過ぎ試験日前日。
試験の為に予約してあったホテルに向かう為に
部屋を出て自動販売機の前を通り過ぎた時、
その猫はいつものようにどこからともなく現れて、
私を見つめていました。
お見送りをしてくれるかのように
ニャーニャーと鳴きながら。
これがこの猫を見た最後の姿となりました。
試験が終わったその日から
その猫は姿を現さなくなったのです。
資格勉強をしている期間、
その期間だけその猫は私の前に姿を現した事になります。
しかし、今でも顔や毛並み、そして鳴き声を忘れられません。
そしてこの時期になると
「あの猫、今何してるかな」と想像してしまいます。
もしかしたら今でも
目標に向かって頑張っている誰かの隣に
ちょこんと座っているかも知れません。
頑張ってと励ますように
ニャーニャーと鳴きながら。
何年か前にこの話を書き、当時運用していたブログ(現在は閉鎖)と
SNS(現在は運用休止)に投稿した後、
読んでくださった方から多くの反響がありました。
この話の当時、近所の方が「数カ月前に引っ越した家の猫ではなか?置いて行かれたのかも」と話していましたが、それも定かではありません。
私と猫の様子を見ていた方には私の飼い猫だと
よく勘違いされたものでした。
部屋の中に入ろうとした事もありましたが、ペット禁止の部屋だったため、決して部屋に入れる事はありませんでしたが、一度車に乗ってしまった事があり、一人と一匹でドライブをした事はありました。
このキジトラ猫との思い出は、今後も決して忘れることはないでしょう。
WATARIDORI Artwork&Labo 主宰
鈴木 基之
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