
置き去りにされた記録〜はじめに〜
あのころの私は自分を殺しながら生きていた。
それでも人はなんとか生きられる。・・・・ある程度は。
あのとき家を飛び出していなかったら、私はどうなっていただろうか?
生きてはいたかもしれない。
完全に壊れた状態で。
罵声を吐いているとき、暴れているとき、あいつは鬼だった。
人間の顔ではなく鬼の顔をしていた。
その顔は今でも鮮明に思い出す。
あの時の私は壊れすぎていた。
何かがいつも満たされなくて不安におしつぶされそうだった。
たくさんの本を読んだ。
いろんなセミナーにも通った。
正しい答えを与えてくれるのはとてもありがたい。
答えがわかって救われたことがたくさんあった。
でもその先がわからない。
知識を入れれば入れるほど私は苦しんだ。
正しい答えはときに何の役にも立たない。
意識を失いかけていた私を救ってくれたのは、私の魂だった。
私の魂はずっと私の中で生きていた。
いつも何かを感じていた。
小さい頃からずっと。
体の奥で何かが動いている。それはなんなのか?
あの瞬間まで私はわからなかった。
今体温を感じ、体中に熱い血が流れているのを感じながら生きている。
私は自分の真っ暗な闇を誰にも知られたくなかった。
アルコール依存症の妻、DV被害者、PTSD、パニック発作、アスペルガー症候群・・
弱い人間だなんて思われたくなかった。
不幸な人だと思われたくなかった。
お酒を飲んだらどうしようもない人だけど、でも彼は私のことを誰よりも理解してくれている、愛してくれている、そんな彼を私も愛している。
そのへんの冷めた夫婦より私のほうがずっと幸せだ。
ずっとそう思っていた。
じゃあ幸せであるはずの私がなぜ10年以上ものあいだ、上着を着て、鍵、携帯をにぎりしめふとんに入らなければいけなかったのか?
薬を飲んで眠り続けることを考えなければならなかったのか?
本当は私ってものすごくかわいそうな人なの?
それともものすごくバカなやつなの?
バカなやつだと思われてもいい
けどかわいそうな人とだけは絶対に思われたくない。
母親の背中はいつもそうだった。
母親のように愚痴ばかり言うような女には絶対にならない。
かわいそうな女にだけは絶対に・・・・ならない。