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複雑なものと君と

複雑な感情を抱えた日
複雑な、とは怒りや悲しみに加えて、それらを抑え込もうとする思考も含めたもので僕にとっては酷く厄介なもの

家を出て細く曲りくねった坂道を下ると、商店街に行き当たる
そこには僕らの馴染みの珈琲屋があるので、いつものようにドアベルをカランと鳴らしながら入りいつもの席に座る

春なのに、初夏の陽気
少し汗ばんで綿のシャツが背中に張り付いている

冷たい珈琲を頼んだ

複雑なものを紐解くというよりも、なかったことにしたい気分だった

ガランと音がしたので目をやると、君が入ってきた。
ゆっくりと、そして静かに近づいてきて僕の横に座った
なぜ向かいの席ではなく、横だったのか

君は足を放り出してだらりと座っている
そして運ばれてきたお冷を一気に飲み干してこう言った

ぶっ飛ばしに行ってきた

僕は一瞬思考が止まったけれど、笑いが止まらなくなって小さく肩を揺らした

君らしいな

僕の複雑な感情はもうどうでもよくなっていた
僕らの凸凹な組み合わせがうまく嵌まり込んだ瞬間を見た気がして、僕は少しすっきりした気持ちで珈琲を飲んだ

冷たい珈琲が美味しい季節になった

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