君と僕とのはじまり
君と僕との出会いは晩秋。纏う空気の冷たさが際立つ日だった。
そのときすでに日は沈み、空は橙と濃紺のグラデーションを描いていて、妙に胸がぎゅっと締め付けられる切なさを感じていた。
歩き出そうと視線を戻すと、同じように立ち止まって空を見上げている人がいた。しばらくその人を眺めたあと「きれいな空ですよね」と後ろから声を掛けた。すると「でもなんだか、すごく胸が苦しいんです」と遠くの稜線を確認するかのように視線を移しながら答えた。
普段人に声を掛けるなんてしない僕が、どうして君に声を掛けたのか。
僕らはしばらく立ち話をして、連絡先を交換した。けれどお互い、連絡を取り合うことは一度もないままに時は過ぎた。
一番冷え込んだある冬の日。僕は空から降りてくる大きなふわふわを見上げていた。辺り一面は色を失った世界で、庭先の南天でさえ雪の影から控えめに赤をのぞかせているだけだった。
マフラーに積もる雪を払いながら歩きだすと、連絡先を交換してそのままにしていた人がまた、同じように空を見上げていた。「今夜は積もりそうですね」とあのときと同じように後ろから声を掛けると「そうですね。なんだか、色のない世界に埋もれていきそうです……」そう言いながらコートの襟で首元の寒さを誤魔化そうとしていた。
寒さゆえなのか、僕らは一緒に歩いてテイクアウトのカフェ・ラテを買った。僕は首からマフラーを外して「今日初めて巻いたので、そんなに汚れてはいないと思います」と差し出すと、驚いた目をしていたけれど、ふっと目を細めて「ありがとうございます」と小さな声で言った。
桜の開花宣言が出た日、君はマフラーとお菓子を持ってやってきた。
「大変遅くなって、ごめんなさい」
待ち合わせは停留所に近いテイクアウトカフェの前