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夢現

さくらんぼを食べながら
初めての口づけを思い出していた

17歳
新発売のさくらんぼ色のうる艶リップクリーム
香りもさくらんぼ

海がすぐそこに見える教室の窓際に座って
開け放たれた窓からぼんやりと外を見ていた

少し沖にはヨットの白いマストが見える
――風に乗るって気持ちいいのかな……

夏休みの土曜日の午後
補習の勉強は全く手につかない

だってあのとき
うる艶さくらんぼ色の唇を、誰かが奪っていったから

とてもきれいな横顔の、白い髪で
夏なのに真っ白な肌で、瞳の色はブルートパーズ

友達は
そんな漫画のような人がこの世にいるわけがない
そう言って、夢だったんだと笑っていた

――白昼夢?

唇に残ったふんわりと柔らかい感触が忘れられない

いくつも経験した唇は、今でもそれを超えない

青い空と白い雲、青い海と白いマスト
青い瞳と白の髪、そして白い肌

30年たってもその中にいることを友は笑うけれど
居場所がなかった世界から、もしかしたらすべてが夢なのかもしれないと思わせてくれたあの口づけは、今も変わらずきれいなまま



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