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落語「文七元結」利他の循環する世界
昨年12月の「読書のすすめの落語のすすめ」で、三遊亭全楽師匠の一席『文七元結』に深く感ずるところがあり、
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三年前に、読書のすすめの『成幸読書』に選ばれていた
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『思いがけず利他』中島岳志著
https://dokusume.shop-pro.jp/?pid=164261717
を、もう一度読み返しました。
『成幸読書』とは、
https://pro.form-mailer.jp/fms/e4fbef2a283451
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『思いがけず利他』の著者は、古典落語「文七元結」の長兵衛の決断『利他』を大きく取り上げています。
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意思や利害計算や合理性の『そと』で、人を動かし、喜びを循環させ、人と人とをつなぐものとは?
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べっ甲問屋の手代文七は、集金に出向き五十両を懐に帰途に着くが、それをスラれてしまった。
恩義の厚い店の主人に、文七は吾妻橋から身を投げて詫びようと橋の欄干に乗り上げる、とそこに左官屋の長兵衛が通りかかる。
長兵衛は腕はいいが、博打で身を崩し借金だらけ、仕事道具も質種に、毎日毎日夫婦喧嘩が絶えず、見かねた17歳になる娘のお久が吉原に自分の身を売ってお金をつくり、父親の再起を願う。
そのお金ちょうど五十両。それで方々の借金を返し、仕事道具も手に戻し、心を入れかえて働いて、一年後の大晦日まで五十両を返すことを誓う。それが出来ないと、娘は吉原のお店に出され客をとらされてしまう。
そのお久の想いの五十両を懐に家路についた長兵衛は、川に身投げしようとしている文七に出くわしとっさに止める。
どうしても、死んで詫びなければと文七、何度も橋の欄干を越えようとする。
長兵衛は身を切り刻まれるように逡巡する。
五十両が無いと川に身を投げて死んでしまう文七、
この五十両で借金を返し道具も質屋から取り戻し、必死に働いて一年後まで五十両貯め、娘を迎えに行かなければならない長兵衛、
長兵衛は、身を切り刻まれるように逡巡する。
この五十両が無いと、文七の命が消えてしまう、
この五十両をお久の願い通りにできなくて、お久が吉原に身を沈めることになっても、悪い病気にかからないように金刀比羅様でもお不動様でもいい、拝んでくれ、
そう言って、長兵衛はその五十両を文七に投げつけて去る。
長兵衛の決断は何処から来たのだろう。何の声に従ったのだろう。
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意思や利害計算や合理性の『そと』で、人を動かし、喜びを循環させ、人と人とをつなぐものとは?
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長兵衛は、目の前の川に沈んでしまうかもしれない若者の命と、吉原の黒い塀の中で一生を終えることになるかもしれない娘の命を、天秤にかける。
我が娘の方がどうしたって大事だ、目の前の見知らぬ若者を助ける筋合いはない。
利害や合理で計る心は逡巡する。どっちをとるか、どっちが正しいか、二つに分けて思い惑う心…
そして、一つに突き抜けた。
『目の前に、我がもてるもの全てを差し出す』
頭の中でぐるぐる考え二つの間で揺れ動く心が、目の前に、一つに向かって跳躍する。
それは、禅語『百尺竿頭一歩を進む』にも通じる。
人は、それぞれの人生で、知識や経験や価値観の「百尺の竿」にしがみついている。
「百尺の竿」は、常識や普通といった思い込みや決めつけ、また、損得勘定や利害計算など、そうしてつくられてきた「自我」や「利己心」。
『百尺竿頭一歩を進む』は、それらの捉われから手を離さないと、この世界の真理の有り様がわからない、『他力』の世界が見えてこない。
その百尺の竿から手を離して、真理の有り様『他力』の世界へ飛び込め。
長兵衛は、利害計算や合理性の思考「百尺の竿」から手を放し、見て見ぬ振りはできず目の前の文七を助ける、自分のもてるもの全てを投じて『利他』を、『他力』に飛び込んだ。
『百尺竿頭一歩を進む』その『他力』の世界は、
お久が父親の再起を願い、必死に助けたい心、
吉原「佐野槌」の女将のお久の想いを汲んでお久を形に五十両を長兵衛に貸す親心、
長兵衛の、思考を振り切り身体が先に動くような文七を助ける行為、
べっ甲問屋の主人の、文七を助けてくれた長兵衛を探し出し、長兵衛の心意気に深く感動し、様々に心を尽くす、
そして文七はお久をすべてをかけて幸せにする、
それら『利他』の循環する世界。
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意思や利害計算や合理性の『そと』で、人を動かし、喜びを循環させ、人と人とをつなぐもの。
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「文七元結」の噺は、それら利他•慈悲の循環を見せてくれ、重層広大かつ無始無終の『他力』が、この世界の真理の有り様だと物語っている。
私たちは、「自我」「利己」に向く片目に偏っています。自分中心の考えで、自分の知識を振りかざしています。
『他力』に目を向け、両目を開いて『他力』の法の『利他』を。
「自我」「利己」の片目に偏った私たちに“縦糸の読書”を通して、しっかり両目を開いて見るように、「読書のすすめ」の『成幸読書』は、願い希望するもの。
私も『成幸読書』の縦糸の読書を通して、いつも自分に問うています。
私は損得勘定や利害計算を無意識のうちにしてはいないか、自分中心で知識の語りに堕ちていないか、自我に凝り固まった見方をしていないか、利己心で動いていないか、察しているか、慮っているか、見えないところを両目を開けて見ているか、
重層広大かつ無始無終の因縁生起の『他力』の世界が見えているか、
この真理の有り様の『他力』の世界に身を投じているか、
自分のもてるもの全てを目の前に差し出す、『他力』の法『利他』を行じているか。
「読書のすすめ」
🌟「読書のすすめ」定例落語会開催予定
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「読書のすすめの落語のすすめ」
リアル会場&オンラインZoom
2月12日(水)19:30~
3月12日(水)19:30~
「読書のすすめの落語のすすめ」
https://note.com/tsubaki3103/m/mde19e3b06f83
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