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テイラー・スウィフトと履歴書に載らない戦い

テイラー・スウィフトのライブを観に行ってきた。
その土曜日は長男の補習校の運動会に出、次男を野球の試合に連れていった後で汗と砂埃まみれという、テイラーの世界観からほど遠い状態からの出発だったが、ともかく開演に間に合うべくオハイオからデトロイトへ3時間車を走らせた。
コントラストも甚だしい野球道具と男子飯に覆われて今にも消えそうなテイラー・スウィフトに呼応する乙女な灯をそっと暖めて。

アメリカでワーママなAちゃん

Aちゃんが助手席に乗り込むと、普段は男子しか乗せていない埃っぽい車がさっと華やいだ。
綺麗に巻いた長い髪と良い香りに、私は日常から離れてテイラーのライブに行くという実感が湧く。
隣に座るAちゃんはアメリカで働くワーママだ。

以前に記事で令和ママのかっこよさを書いたが↓、

Aちゃんから、旦那さんの働く会社の現地採用で働いていると聞いた時も、目から鱗が落ちる思いだった。
「前の日まで談笑してた隣の席の人が突然『明日から来なくていいよ』って言われていなくなっていくから」
という職場で生き残りたくましく働き続けている。
日本的な丁寧さを欠かさないように気をつけて仕事をしていると言う。

渡米すぐに現地採用で働くなんて選択をするAちゃんはよほど日本で真っ直ぐなキャリアを積んでそれを生かしているのかと想像していたが、話を聞くとこれまでに出産や旦那さんの転勤で何度も挫けたり失敗したりしてきたし、今の仕事も未経験の職種なのだそうだ。
女の人生に付いて回る、出産や家庭との両立に苦しんできたからこそ、場所がアメリカだろうと、前例がなかろうと、働きたいという主張を通したAちゃんの白いつるつるとした頬の下には戦う女の芯が通る。
「だって、夫の転勤で働けなくなるなんて理不尽すぎるもん。駐在帯同制度のある会社は妻の雇用も生み出すべし」

子育てと就労と駐在の狭間で人生のエアポケットから模索する私の背筋は、Aちゃんが横にいるだけでみるみる伸びる。

戦友はテイラー・スウィフト

テイラー・スウィフトのライブ会場を埋め尽くす、人種や年代の違う人たちに隔たりなく感じる親近感は何なのだろうと考えていた。
一人でテイラーの格好を真似て来ている男の子や、私たちより上の年代の人たちにも、「色々あるけど、頑張ろうね!」と声をかけたくなるこの感じ。
ライブが始まり、フォード・フィールドの六万人が歌詞を一言一句欠かさず熱唱する段になり、わかった。
ここにいる人たちは、戦友なのだ。
敵に抵抗する姿を売るのがテイラーの戦術だとしても、そこに力を得る私たちの共通点は何かと戦っていることだ。
それが失恋から立ち直るとか、そういう、履歴書的でない戦いだとしても。


履歴書に載らない戦い

下ネタは万国共通と言うが、こうした履歴書的でない戦いも、私は万国共通の話題になると思っている。
例えば、生理痛。恋愛。人知れぬ気遣い。親との関係。恐怖を感じること。老いること。
そういう、スポットライトを浴びないけれど確かに戦ったという経験は、どんな人種のどんな相手とも分かり合えるという実感がある。
日本語も英語も半端でも、心の通じ合う友人に人生で出会えていると思うのは、こういった戦いの経験と、それによって動かされた感情を共有できると信じているからだ。

だから、キャリアに何の関係もない履歴書に載らない戦いだとしても、信念さえ持てることにはこれからも挑んでいきたい。

テイラー・スウィフトのライブに行った感想としては、どうも変わった文章になってしまった。

Aちゃんと私はひとしきりテイラーの曲を熱唱し、いろんな香水の匂いを浴び、帰り道は喋り倒しながら高速沿いに出現するアイホップやデニーズを検討しつつも「なんかさあ、フォーとか食べたいね」と、オハイオのベトナム料理屋で小旅行の幕を閉じた。

Makiko


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