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アメリカの色んな家庭と、エイミーのこと

ママが二人


よく顔を合わせているうちに、色々と話せる仲になってきたママがいる。
兄弟どちらも同じクラスなので、双方のクラスの各種イベントごとに出入りしていると、高い頻度で会うことになるのだ。

そのママと話すときには少し気を遣う。
その家庭はパパがいなくて、ママが二人という構成。
それだから気を遣うというわけじゃなくて、
どうしても昔、自分のしてしまったことで忘れることのできない過去を思い出すからだ。

チェコで会ったエイミー


大学四年から五年にかけて、周りが就職していく中で私はチェコ共和国に留学していた。
こう書くと随分と突飛な行動に見えるかもしれないが、駐在員の子に国境の垣根は実際より低く見える。「交換留学制度ならタダで一人暮らしできるわ」くらいのノリで、その場所が大阪だろうとチェコだろうとそう大差はなく、行ったことのない場所を経験できるという好奇心だけで決めた。チェコのその大学では学費だけでなく寮費や生活費まで助成が出たので、日本にいるよりお得だわあ、とか軽く思いながら簡単に準備をして、行った。

そのチェコでの留学中に、エイミーというオーストラリア人の女の子に出会った。
本と料理が好きで、チェコには街並みに惹かれて来たという話だった。私たちはすぐに意気投合して一緒に料理をしたり、劇を観に行ったりするようになった。
玉ねぎを飴色になるまで二人で何度も交代してヘラで混ぜたっけ。

エイミーと話していて「過去のガールフレンド」の話になった。
「あ、ガールフレンドか」と私は思った。ボーイフレンドじゃなくてガールフレンドなんだ。
それまで身近にいなかったので、ちょっと戸惑った。エイミーは私の様子を察したのだ、ほんの数ミリか数センチだけど、その日から体の距離を空けて接するようになった。私が身構えないようにしてくれたのだろう。

寮のキッチンでみんなでお酒を飲んでいて「この後ゲイバーに行くけど来る?」と誘われた。エイミーもその場にいた。
私はバーなどは苦手だし断ろうと思ったが、「つまらない真面目なアジア人」とみんなに思われたくなかった。
それで、「ああ、ゲイバーって行ったことあるけど、全然面白くなくて。マジで興味ない」というような発言をした。前に一度、東京で友達に連れられて冷やかしのような形でちょっとだけ足を踏み入れたことがあったから。
場の空気が冷やっとするのを感じた。
口火を切ってくれたのはエイミーだった。
「ああ、男の子と男の子のバーに行ったのかな? それだからつまらなかったのよ」
そう、場に笑いを与えてくれて、優しくグッナイと言い出ていった。

今なら、平らな友情を育みたい


エイミーは私と気持ちが通じ合う趣味を共有しつつも、絶妙な距離を取っていてくれた。私の趣向を尊重してくれていたのだ。
それなのに、私は無知と、背伸びと、半端な英語力で、彼女を絶対に傷つけてしまった。

それからも謝る機会を作れたはずなのに、私はエイミーの優しさと距離感に甘えて、結局その件はうやむやにできるかもしれない、と触れないまま過ごしてしまった。
確かにその件に関してはうやむやなまま、エイミーは気にしていないかのように最後まで友人として振る舞ってくれたけれど、自分の中で恥ずかしさと申し訳なさは増すばかりだった。

うやむやにしようとしたことが、返って消えずにずっと残っている。書いたところで胸の支えが取れることもなく、恥ずかしさでいっぱいだ。だから、歳を取って、二人のママと話すとき、今度は、自分を大きく見せようとしないように気をつけたい。20年前の失敗の原因はそこだから。
自分を等身大に見せるというのは実際には真に難しいことではあるけれど。

自分の知らない世界を知る人を前にしても、劣等感ではなく共感を土台にした、平らな友情を育みたい。

勇気をくれる、アメリカの色んな家庭


アメリカの家庭の家族構成にはいろんな複雑なケースがある。ステップファミリーはとてもポピュラーだし、一度ステップしたものの戻ったとか、ママやパパが何人かいるとか、週によって住む親が違うとか、近所だけ見ても本当にいろんな形がある。
珍しい形で、どういうことなのか一度聞いただけでは理解できないようなケースもある。だからって、詳しくは聞かない。目の前にいるその人と分かり合えることを探すことに注力する。それに私も自分のことで手一杯なので、他人の家庭の事情を細かく聞いている場合でもない。

私でも私なりに自分の人生や幸せを追いかけている。みんなだってそうだから、色々と試したり、労力を使って面倒に立ち向かったりするのだ。

形が色々なのは、頑張って追いかけているからだ。

アメリカの色んな家庭は、勇気をくれる。

Makiko

三ヶ月近くに渡る、夏休み中のアメリカ。この日参加したヨガの名前はStrong Mama Training。仕事との両立に苦しみながらも「子供と一緒にいれて嬉しい」と話す人が多い印象。


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