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2021年3月31日  第4回、イスラエル国会議員選出国民総選挙

はじめに

Insight Lab IsraelのFacebookをご覧くださっている方や、イスラエルのニュースに興味をお持ちの方にはすでにお馴染みかと思いますが、イスラエルでは先日、国会にあたるクネセットの議員選出総選挙が行われました。
クネセットは任期が4年と定められているので、この様な選挙は4年に1回行われると考えるのが普通なのですが、今回の選挙はここ2年で、すでに4回目となっています。なぜかというと、クネセットで意見がまとまらずに解散となったり、その後の選挙でも過半数を超える連立与党を期間内に組むことができなかったり…という事態が繰り返されたからです。これはイスラエルの歴史を振り返ってみても、過去に例のない異常事態です。
にもかかわらず、この選挙を終えた今、また連立与党で組閣するのは結局ムリで第5回目の選挙が近く行われるのではないか…というウワサすらささやかれています。
それはなぜでしょうか。

イスラエルはユダヤ人が一致団結した独裁国家?

多くの日本人の目には、イスラエルは「ユダヤ人の国」として国民が一致団結し、生き残りのために近隣諸国への妥協を許さない強硬な政策をとる国、という風に写っているかもしれません。
また、なぜか「イスラエルは独裁軍事国家で言論の自由もない」と思っていらっしゃる日本人の方に、私は今まで何度もお会いしました。
けれど、現実はまったく違います。
まず、イスラエル人は全然一致団結していません。同じ「ユダヤ人」でも異なる文化、異なる歴史的背景、異なる言語を持ち、見た目にも全く異なる民族からなっているのです。
さらに、イスラエル人の約20%はユダヤ人ではありません。上記の「異なる」リストに「宗教」も加わるわけです。
生活スタイルも違えば、価値観も違う。求める国のあり方も違い、考え方も違っていて、ついでに言えば食べるものすら違っている。
これで一致団結できるはずがありません。
それから、イスラエルは独裁軍事国家でもない上、言論の自由はふんだんに保障されています。イスラエル人は、日本人には信じがたいほど思ったことをそのまま口に出し、自由な行動をとります。
本当にそれぞれが、異なった意見を持ちそれを述べ立て実行に移そうとする。イスラエルを軍事独裁国家と思っていた日本人がどこからそんな情報を得たのか私にはわからないのですが、イスラエル、現実的には独裁国家とは対極にあると思います。
その証拠が、この繰り返される選挙と言ってもいいのではないでしょうか。

多数決によって選出されるクネセットの与党

さて、イスラエルの国会はクネセットと呼ばれ、その議席は120。そのうちの過半数、つまり61議席以上を獲得した党が与党となり、イスラエルではその党首が首相となる議会内閣制度が採用されています。
非常にわかりやすい「多数決」で、民主主義のあるべき姿と言っても良いでしょう。
けれど、現実はそれほど甘くありません。
まず、イスラエルの政治の特徴として言えるのが、圧倒的多数によって支持されている政党がないということ。
さらにそれぞれの党が掲げている政策の方向性に類似点が少なく、お互いに真っ向から反対する政策を掲げている政党がいくつもあるということ。
この2点が重なっているため、まずは一党で過半数の61議席を獲得できる政党がないという現実があり、さらに、連立で手を組んで同じ方針で政策をたてることのできる内閣をつくれないという現実が追い打ちをかけます。
政局がまったく安定しないのです。


それぞれが妥協できない理由

この現実を見て、「そんなに意地を張らずにとりあえず了解しあって連立を組めばいいのに…」とおっしゃった日本人がいますが、これは「意地の張り合い」などでなく、それぞれの公約が異なるために「とりあえず了解」しあったら公約違反になるのです。
さらに、たとえ「とりあえず連立を組む」ために了解しあったとしても実際の政策を決める際に意見がかみ合わないのですから、早々に解散になるのは目に見えています。 そうすれば、公約違反をした政党は次回の選挙で確実に票を失います。
前回の選挙の後、青白党は「コロナに対応するための臨時政府」との言い訳で「絶対に組まない」と公言していたリクード党と連立を組みました。青白党に投票した民衆の失望は本当に大きかったです。クネセットは予想にたがわず1年ともたずに解散。そして今回の選挙で青白党は大幅に票を失っています。リクードと手を組んだ時点で青白党の負けは確定したと言っても過言ではないでしょう。


あなたは誰と組む?


さて、こんな複雑な状況のイスラエルですが、写真のグラフが今回の選挙の結果となります。
あなたがどこかの政党の党首だとしたら、どの政党と組んで連立与党を目指しますか?
A政党を仲間にしようと思えば、B政党は手を組んでくれない、CとDなら一緒に連立を組めるけれど過半数にはまだ満たない…、E政党との連立は解散および票を失う危険大…。
投票結果が出始めると、イスラエル人はどの政党とどの政党が連立を組めるのか、どことどこが組めば何議席になるのか、あと何議席獲得すれば多数になれるのか…様々な可能性が激論が交わされ、さながら「椅子取りゲーム」の様相を帯びてきます。
例えば写真の円グラフ。
今回の選挙も、焦点の一つにネタニヤフ以外の人を首相にすることを目的としているグループもあります。問題は汚職疑惑のある彼以外に、首相にふさわしいと思われる人物がいないこと。そんな視点から見た連立の組み方で考えられるのがこの円グラフです。
7議席の右へ党や、4議席のアラブ連盟がどちらの陣営につくのか…。
議席数の少ない政党が、大きな影響力を持つ場合があるものイスラエルの政治の特徴でもあります。


終わりに


投票の結果が出てから7日以内に、イスラエルの大統領は当選した議員の中から1名を選んでクネセットの立ち上げを要請します。
その要請を受けた議員は28日以内にその要請にこたえなければなりません。
大統領の選ぶ1名というのは、一番多くの議席を得た党の党首である必要は必ずしもなく、過半数の議席を超える連立政権を立ち上げることができる可能性の一番高い議員を選ぶというのが、ここでの重要な点です。
要請を受けた人物が過半数を超える連立政権を立ち上げることができなければ、何度かの交渉の後、別の人物が選ばれます。
おおざっぱに言うと、それでもダメなら選挙はやり直しということになるのですが、すでに、「それは何としてでも避けなければならない!」という主張や「こうなったら第5回目の選挙に挑むべきだ!」という主張が声高に叫ばれていて…。
この国は本当にカオスで、調和や同調からは程遠い国なのだと思い知らされるのです。
イスラエルは今、ファラオ王の時代のエジプトで奴隷として苦役を負わされたユダヤ人の歴史を思い偲ぶ、過ぎ越しの祭りの最中ですが、きっと今頃イスラエルのクネセット議員は皆必死の形相で交渉を行っているのでしょう。
どうか、この国の未来が祝福されたものであることを祈ってやみません。

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