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トヨタ物語 ウーブン・シティへの道|第18回 あなたと一緒に考える

■プロコーチが読み解く販売カイゼン

 では、トヨタがやっている販売のカイゼンを同業他社はどう思って見ているのか。

 自動車販売店に対するコーチングで知られる専門家、大久保政彦はホンダ販売店のナンバーワンセールスマンだった。その後は外国車の販売店の営業マンもやった。国内資本と海外資本を渡り歩いて、どちらの会社でも「クルマを売る男」だった。

 10数年前から販売店に請われて、売り方、売るコツをコーチする仕事を始めている。もっとも、すぐには食えなかったから、スーパーの店頭で納豆の実演販売に挑戦したり、営業車のドライバーをやって、地を這うような生活を経て食いつないできた苦労人だ。大久保は「トヨタのようにトータルな販売カイゼンを行っている会社はどこにもない」と断言する。

 「日本のディーラーは国内メーカーと海外メーカーのふたつの系列があります。現在、どちらの販売店にもトヨタでいうe-CRBのような顧客管理システム、一般にSFA(Sales Force Automation)と呼ばれるものは入っています。しかし、活用しているかと言えばそれほどでもない。

 たとえば地方の国内系ディーラーはあるメーカーの車を専売しているのではなく、複数のブランドを持つケースが多い。すると、あるメーカーが指定してきたSFAを使うことはできません。ディーラーが独自で手に入れた汎用性のあるSFAを使うことになる。海外メーカー系列の販売店も事情は同じです。どれかひとつのブランドのSFAを使うことはできません。

 もうひとつ、トヨタの販売カイゼンが同業他社と決定的に違うのは整備工場にまでカイゼンが入っていること。他社はそれはやっていません」

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写真)自動車販売のコーチングを手掛けるプログレス代表の大久保政彦氏。国産、外資系自動車販売会社で実績を上げ、2005年に人材育成会社設立に参加、16年より現職

 大久保によれば、他メーカーの販売サポートは「新車販売のアシストをする」ことに尽きるという。具体的には販売店の外観を変える費用を負担して客の誘致を図る。販売店が下取り価格を法外にまで引き上げるための補助金を出す。下取り価格が上がれば、乗り換えが加速し、新車が売れるからだ。

 あくまで販売店が新車を売ることを助けるのがメーカーの役割と考えている。販売店も顧客管理ソフトをもらい受けるよりも、現金を受け取った方がありがたいと思っている。また、整備工場のサービスそのものをカイゼンすることが行われていないのは、他社にはそういったノーハウがないからだろう。

 顧客が定期点検や車検でやってくる日時のデータは汎用ソフトでもつかむことができる。しかし、車検が数時間かかってしまうのならば、客は店内に滞在することなく、家に戻るかもしくは映画でも見に行く。トヨタのように45分で整備を行うことができなければ店舗で商談することはできない。
e-CRBが顧客管理で有効なのは整備工場のサービスカイゼンが行われているからだ。バックオフィスがジャスト・イン・タイムでなければ効果を発揮しない。

■いきなり指導しちゃいけない

 大久保は販売のコーチングでは営業スタッフ教育も行う。この点はトヨタの販売カイゼンチームは行っていない。しかし、大久保に言わせると、「トヨタの販売カイゼンは営業スタッフ教育にも役に立っている」と言う。

 営業スタッフの教育を頼まれた場合、大久保はやみくもに「売ってこい」という類いの指導はしない。彼がやるのは「私はコーチとしてあなたのことを理解したい」と伝えることだけだ。

 大久保の話を聞こう。

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