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【小説】 変える、変われる。 : 56

駅から少し離れているというか、S駅が最寄りというかK駅ともうひとつ違う沿線の駅も全部最寄りと言っても良いくらい、三つの駅の真ん中なところまで十数分歩いて来た。

白い外壁で小綺麗な外観のマンションが見えてきて、お似合いなところに住んでいるんだな、と思った。

「すいません、だいぶ歩かせてしまって。」

「いいえ。」

良いところにお住みなんですねと言おうと思ったら、マンションの裏手に入って行った。

厳重な防犯体制なのかとついて行くと、昭和!!と言いながら写メを撮りたくなるような見事な古い木造建築アパートが現れた。

独特な感性の美大生とか相当な苦学生や留学生が選択の余地無し、安い家賃だけで即決入居を決めそうな佇まい。

容姿と真逆の座標過ぎる、でも、以前に聞いた今までのことを考えると申し訳無いけど相応になっちゃうのかな、なんて色々と思った。

「ここの二階です。」

普通に言って、懐かしい昭和映画みたいに「カンカンカン」と金属音を響かせながら階段を上がって行った。

自分の部屋の方が外観はよっぽどガーリーかもしれない・・


「狭いんですけど、どうぞ。」

失礼ながら外観を見てから間取りとかどうなっているのか、凄く興味が湧いていた。

「失礼します。。」

玄関を入ったら、バリバリ畳の四畳半の全貌が見渡せた。

布団が畳んで隅に置いてあって、ハンガーとその下に収納ケースが2つ3つ?

折り畳んである丸テーブルが壁に立てかけられていて、空いている空間に本棚の部材が広げられている。

何でこの状態で外出を?

しかも気まずさ1000パーセントを約束されている待ち合わせを・・?

「お詫び」は恐らく、あの日からずっと考えていたのかもしれない。そして待ち合わせを決めてから、時間があるから開梱だけしておこうかしら、で、指をザックリ切って意気消沈。そんな流れを想像できる。

あまりジロジロ見るのは女性の部屋だし失礼だと思ったので、取扱説明書を手に取ってみると、部材の個数に赤く「〇」が付いている。ダイイングメッセージみたいに血で書いたんじゃないでしょうねと思っていると、部材の上に赤いボールペンが置いてある。安心。

「部材と入数は確認されたんですか?」

「はい、必要数は全部ありました。」

寄せてあるダンボールに割と鮮血が付いていて、ゾ~っとした。

「あの、指の絆創膏交換した方が良さそうですけど。。 組立は始めますので。」

「・・はい、お願いします。 ちょっと貼り替えて来ます。」

歩いて数歩の洗面所?へ入って行った。

取説を見ると、おねえちゃんに頼まれたダブルスライドタイプより簡単なシングルスライドの奥深タイプ。ちょっと欲しいと思っていたので俄然出来上がりが見たくなってきた。パっと見、本とかマンガとか置いてい無いようけど何を入れるんだろう??

スライド部分をサクサク作っていると、貼り替えを終えたらしい能面が戻って来た。

「わたし、どうしたら良いですか?」

「本体を作るときに反対サイドの側板とかを押さえて頂ければ良いです。」

「わかりました。」

外の車の通る音がハッキリ聞こえる位、シーンとした無言状態で黙々と組立ていた。スライド部分はサクっと出来て、本体も全くヘルプ無しだったおねえちゃんの本棚に比べたら反対側を押さえてもらうだけでも格段にラクに組立られた。何だったのかしら、あの苦労は?と思うほどに。

「・・いつ頃からこちらに?」

気になって仕方無かったし、あんまりシーンとしているのも何だかイヤだわと思って聞いてみた。

「高校を卒業してから、ずっとです。大学が近かったし、家賃も凄く安いので。。 養護施設の先生に手伝って頂いて、一緒に探して決めました。」

「あぁ、そうですか・・」

18歳から、いま歳が幾つか知らないけど、恐らく・・20台半ばくらいと思うけど、これから新生活ガンバリます!なフレッシュ女子大生はまず選ばない物件で、もうちょい小綺麗なとこに引っ越したくならないのかと思った。でもなぁ、そうだよなぁ、お金頼れるとこ無かっただろうしなぁ、と。今も住んでいるのは、、そうだわ奨学金の返済もありましたね、、と知らなくて良かった知識がまた増えた。

「荷物も多く無いですし。。 会社も電車1本で行けますから。」

「あぁ、そうですね。」

聞けば聞く程、深みにはまりつつある気がしてきて、それからは黙って組立を続けた。

着手40分弱で、棚板を好きな高さにすれば良いところまで、組み上がった。

「わぁ! 凄い、有難うございます!」

嬉しそうに組み上がった本棚をペシペシ叩いたりして仕上がりを見ている。

「後は棚板を好きな高さに設置して、スライドをレールに嵌めて出来上がりですね。何か入れるものはありますか? 棚板の位置を決めて下さい。」

「あ、はいっ! そうしたら、これの高さに・・・」

ハンガーにかかっている服で隠れて見えていなかった、収納ケースの上に乗せていたDVDを持ってきた。

あ、それは・・!


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