【小説】 変える、変われる。 : 5
そして玉ちゃんは招集された。
割とてんてこ舞いな時間に「こんにちは、玉田です。」と自然に事務所にやってきた。
手土産を持って、赤のトレーナーを着て。
所長の戻りがちょっと遅れていて、玉ちゃんに少しお待ち下さいと自分の席の前の椅子を勧めた。
玉ちゃんは「宜しかったらこちらをどうぞ」と小さな紙袋を差し出して来た。
お礼を言って、仕事を再開すべく席に戻った。
初対面だし仕事が立て込んでいたので会話をするでなく。
手持無沙汰かなと玉ちゃんをチラっと見ると、何かを読み込んでいる様子だった。
持ってきた履歴書を見直しているのかな、と思っていると所長が慌てて帰ってきた。
「ごめん、ごめん、打ち合わせが長引いちゃった」
持っていたカバンや手荷物を机に放り出して玉ちゃんの隣に座ると、
「玉ちゃん、久しぶり!まだそのトレーナー着てるんだ。それで、お願い出来そう?」
「どういった感じの仕事なんですか?」
「事務処理全般」
「前みたいな感じですか?」
「そうそう、あの時よりは広がりは無いと思うけど、やってみてもらわないとどうか分からないかも」
「まあ、良いですよ」
良いんだ・・、この程度の仕事の説明で・・、と不思議に思ったが、何か通じ合っている様子だったので口は挟まなかった。
「こちら、お持ちくださいましたよ」
「あ、悪いね、なにこれ」
「たくさん頂いたので、お裾分け」
紙袋の中身は「鳩サブレが10枚」だった。
「相変わらず貰い物が多いんだね」
「1人で50枚近くは美味しいけど、辛くて・・・」
1人なのに50枚近く貰うって、何で?と思った上に、履歴書だと思っていた紙はチラシだった。
所長にヘッドマッサージ器のチラシを見せながら、
「これを5日前に注文したけど、届く気配が無いんです。連絡を待っているところ。」
「待つ楽しみがあるね。」
3年ぶり位に会ったらしい2人の会話が、これ。
そして、事務所は3人になった。