【読書】 希望から不安、拒絶から許容、思考停止、同化。 ~ 暗鬼 乃南アサ ~
いきなりですが、最初に一番の感想。
疲れている時は「大家族」に飲み込まれてヤバイと思います。
本は数か月前に読み終わっていたのですが、読後1か月位は、ふとした瞬間に頭を占拠されるような感覚で抜けるまで大変でした。
主人公の法子は結婚したくなる年頃で、高校からの友達:知美への仕事でも何でもクールに対応出来ることへのちょっとしたコンプレックスを抱えつつ、羨ましいと感じるおっとりした女性。
のんびりさんとハキハキさん。組み合わせは最良かも。
なるほどねぇっと思って読んでいました。
結婚したい法子でも、あまり気の進まなかったお見合いから、お相手の和人に会ってからの強く好意を持ち始めて結婚が具体化していく辺り、法子は知美よりも先に結婚出来ることでコンプレックスを徐々に解消していきます。
ただ、並行するように和人の希望する結婚後のこと「和人の大家族との同居」に不安を覚えます。
確かに結婚するにしても相手の家族、姑舅でも重いのに、祖父母、妹弟、さらに曾祖母までいるところへ嫁ぐことになるなんて、都会育ちには想像を絶する苦労や苦悩を覚えそうなものです。
それでも和人を失うことがもったいなく、なにより知美に「そんなとこに行けば苦労する」が一番結婚への背中を押したことのように思います。
和人へ嫁いで「大家族」と同居を開始して間もなく、近所で爆発を伴う火事が発生し、そのことを起点にして法子には「大家族」への一抹の疑惑が芽生えます。
徐々に疑惑が不審を呼び、タイトルにも入っている疑心暗鬼に囚われます。
和人は大好きだけど「大家族」の度を超えた「仲良しぶり」に、不安と嫌悪も覚える頃には、法子自身へ何かが忍び寄って来ているような気持ちの揺らぎに襲われます。
読んでいる内に「そんなに嫌なら出て行けば良いのに・・」と思ったりしますが、ただでさえ「大家族に嫁ぐこと」で心配をかけている法子自身の家族に忍びなく、何より「先に結婚した事実」から、知美に「そらみたことか」の態度を取られることに屈辱感を持つことになるのかなぁなんて。
徐々に徐々に「大家族」への不審が増し、相談相手が知美だけだったりの中で法子の思考が混乱し始めます。
追い込まれていく過程が怖いんです。
おっとりした性格から、精神的に追い込まれることで変わっていく様が。
そうなんじゃないの?
いや、そんなはずはないよね。。。
でも・・・、まさか。。。
「大家族」の大きな二つの秘密。
中村うさぎさんの解説を読んで、自分が読書中にふんわり思っていたことが氷解しました。
なるほど!!!っと膝をバッシバシ打つほどに。
本の終盤に関する部分や「秘密」について「あの団体、この団体、あの事件、この事件・・・」と、頭にパッパッパっとスライドショーが展開するように。
人は思考を停止した時、その人自身では無くなっているのかもしれません。
自分だけは大丈夫って過信が強い人ほど詐欺に引っ掛かりやすい、なんて話もあります。
ですが、多勢に無勢な、相手が想像を絶する強固な結束と思想統一を持っていた時、抗うことが出来るのか?
どこかのある瞬間、この本の場合「大家族に溶け込んでしまうこと」に法子は安住の地を見出してしまう訳ですが。
暴力で服従を強制されはしませんが、形の違う「暴力」が法子の思考停止へのきっかけにはなっています。
逃げることは出来たはずですが、法子は「同化」します。
元の法子は無くなり「大家族」を守ります。
自分自身だから。
これを最悪の形と簡単に呼ぶことに、若干の抵抗がある自分がいます。
「こうなりたい」と決して思いませんが、今の自分が最終的な法子の状況を羨ましいと思っている部分があることが怖いです。
最強の形の無敵って、こういうことなのかもしれない。
そう思うので、「飲み込まれない」ように気を付けて下さいね。
自分が買った文庫本の帯には「20万部突破」、そして第23刷です。
怖いもの見たさでも充分楽しめます。
ただ、「飲み込まれない」ように気を付けて下さい。
ああ、やっと本棚に仕舞える。。。