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【小説】 変える、変われる。 : 35

悶々としつつ、さりとて事の次第を玉ちゃんに話す気にならず、仕事を終わらせて帰宅した。

ビールの力を借りて気分を上げて行こうと、冷蔵庫へ手を伸ばしかけたけど、悪酔いする予感もして開けたり閉めたりで、結局手に取らず、無駄に冷気を逃がしてしまった。

こんな時は早寝に尽きるけど、寝付きも悪そうで、なかなかの八方塞がり。

憂さを晴らそうとするより、癒しで心を穏やかにする方が良いかもと思って、動画サイトを開いた。

最近のお気に入りの大正琴コンサート動画がおすすめに林立する中、電車と子供のサムネイルが何となく目に付いてクリックしてみた。

どこかの踏切に子供がお母さんと一緒に電車を待っていると、向こうから電車が走ってくる。

すると子供がピョンピョンしながら電車に向かって手をブンブンと振っている。

これが数回繰り返されて、何をしているんだろうと思っていたら、なんと子供が手を振っている電車がホーンを鳴らした!

観光電車が走って来た時は、ミュージックホーンとやらをホロリロリ~ン♪と鳴らした。

誰かが線路内に立ち入ることも無い状態だったので、子供が手を振っていることに運転士さんが返事をしているのは確実。

・・・イイ。

子供が無邪気な様子で「おーい、おーい!」と嬉しそうに手を振るところも、車掌さんが粋にホーンを鳴らして返事をする様子も、なんだか沁みてきた。

ホーンを鳴らして貰えた時に、そこにいるお母さんなりお父さんなりに「やったー♪」と満面の笑みで喜びを爆発させるところなんか、疲れた30代後半には実にたまらない。

無垢な感じに目頭が無性に熱くなって来た。

別に自分が怒らなくて良い出来事で当たり所の無い状態に、優しい温かいものがじんわりと広がりつつあった。

そのまま大正琴の飛び道具みたいな選曲ばかりを聞いて、イライラはかなり鎮火されていった。

「狙い撃ち」の軽快さ、「薔薇は美しく散る」のうっかりするとクラシックと思ってしまうような流麗さ、「ルパン三世'80」のジャジーな子気味良さ。

玉ちゃんと一緒に、それぞれに確実に合いの手を入れたくなるノリの良い演奏。

「オスカ~~~ル!」は言わずにいられない。

程よくウトウトしてきたところで、すかさずベッドに入った。


翌日の所長が出勤してきたところを見計らって、昨日の『いますぐ』であった会話のやり取りを話した。

「あそこまで出入り業者にまとわりつくみたいに、ネチネチと本人を目の前に注意を通り越して嫌味を言わなくても良いと思うんです。終わったことだったり、ホントかウソかわからない人格否定みたいな話とか。二人組が年上なんでしょうから、ある意味パワハラじゃないかと。。 肩を持つじゃありませんが、つい言い返してしまいました。すいません。」

玉ちゃんの眉間にバインダーになりそうな深い皺が刻まれて押し黙り、所長が「うーん、、確かにね。。」と言って黙り込んでしまった。

「そういえば、所長が来たら話しても良いって言ってたことって、何ですか?」

時代劇で人を斬る前みたいな顔付きに到達している玉ちゃんに聞いてみた。

「野木さん、もう話した方が良いかもよ。きむちゃんもやっぱり気づいたことだしさ。」

「うーん、でもねぇ、きっとやりにくくなるから、これから仕事が。特にこないだのこともあったしね。。」

「もう知らぬが仏は通じないじゃん。たっぷり見聞きしちゃっているしさ。しかも大嘘で変な印象持たせようとして、きむちゃんが全然乗ってこないからエスカレートし始めたし。ここいらが潮時だわよ、野木さん。」

「そうだね、知っておいた方がもういいかな。。 きむちゃん、あの二人組はね。。」

ボソボソっと所長が話し始めた。

せっかく所長の尻が落ち着いて来たところで、こちらが落ち着かない気持ちになって来た。


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