【短編小説】 霊感タオル その11
あの日から同じ金曜日。
どうしても足が進まなくてなかなか行けなかったけど、女が待っているような気がして、意を決して公園へ向かった。
入り口で小さく深呼吸をして、ベンチが木陰になり始めているのを遠めに確認してまっすぐベンチへ向かって歩いた。
もうタグには何も無いのがわかっているけど、一応タオルはビッショビショに濡らしてブンブン振って冷えた状態にして首にかけた。
そして、小袋をひとつシャツの胸ポケットへ入れて、ひとつは手に軽く握ってベンチへ座った。
額の汗を冷えたタオルで軽く拭っていると、ベンチの隣に気配を感じた。
き・・来た!
震える手でお茶を一口飲んでから、ベンチの隣をチラっと見た。
女がいつの間にか腰掛けていた。
「先日は本当に有難う御座いました。」
頭にスルっと入り込んでくる例の感覚と、同時に耳からも生声が聞こえているような気がする。
御守がふたつもあると、あっち側を強く感じられるのかもしれない。
「お陰様で出て行けるようになれそうです。」
薄く女が微笑んでいる。
「ど・ど・・・、どこへですか?」
声が出そうになるけど、何とか頭の中の会話に押し留めようと努力する。
「ここから。。恐らく出られるはずですが。。でも。。」
「でも・・?」
「凄く強く引き留められていて。」
「だ、誰・・にですか・・?」
「元々、この辺りにいる方たちとか、ん、、それよりも私の家族の気持ちの方が、とても強くて。。」
「他にも誰かいるんですか? ここに??」
口がカラッカラになりながら、周りをキョロキョロ見渡してみるけど、幸い視界には女以外には何も入って来ない。
「あの、もう、あの、行きたいんですよね? あの、アチラ方面の、もう行っているけど、もっと良い方面に。」
女が少しだけ笑みを浮かべて頷いた。
「でも、家族の私への気持ちが強くて、凄くかわいそうで酷くて不幸でと。。確かにそうなんですけど。でも、こうなってしまったら、私がここにいることの方がもっと不幸なことなんじゃないかと。。」
「家族の方には、あなたの思いは伝わっていないんですか?」
「起こってしまったことが、やはりショックが強いですから。手放せないというのか、何て言うのか。。 あっ!」
女が公園の入り口の方を向いた。
黒い服を着た中年女性と女によく似ている若い女性が、寄り添いながらこちらへ歩いてくる。
「あの方たち。。ひょっとして?」
「母と妹です。。」
物凄く悲しそうな顔で女が二人を見つめている。
二人は女に全く気付かないようで、ベンチの前をゆっくりと通り過ぎて、奥の木の方へ向かって行った。
広場から奥の木へ入って行くお母さんと妹さんを二人で黙って見ていた。
「一緒に行きましょう。」
自分がすっくと立ちあがると、女が不思議そうに見上げて来た。
女に立ち上がるように促した。
「行きましょう。」
奥の木へ向かう自分の後を、ちゃんと女が付いてくる気配を感じる。
例の場所にお母さんと妹さんが、お線香とお花を立てて、しゃがみ込んで俯いて手を合わせている。
ちょっと見ていられない光景。
でも、女から話は聞いた、もうひとつお願いごとを叶えないと。