【短編小説】 霊感タオル その12
「あのぉ・・・」
女が固唾を飲んで自分のベルトを軽く掴みながら、二人を背中越しに覗き込んでいる雰囲気がある。
掴むのは良いけど、何でそこ。
俯いていた二人が顔を上げた。
妹さんが一瞬ハっとした顔をして、自分の背中の辺りを見た。
お母さんが虚ろな表情で立ち上がった。
「今はご容赦頂けませんでしょうか。。」
恐らく報道関係の人間と思われたらしい。
「あの、、」
妹さんも立ち上がったけど、自分と自分の背中の辺りを視線が行ったり来たりしている。
「どちら様でしょうか?」
妹さんが自分と女がいると思われる中間辺りを見ながら、枯れた感じの声で聞いてきた。
「あったことを、そのまま話して下さい。」
女が後ろからやんわりと会話を促して来た、何て冷静なんだろう。
妹さんがとうとう自分じゃなくて自分の背後を凝視し始めた。
「実は自分と会社の同僚が、あの、、見つけまして・・・」
他の人にだったらまあまあ普通に話せるだろうけど、全員、女も含めて当事者には話を思うようには出来ない。
お母さんが絶句した、妹さんはずっと自分の背後を凝視し続けている。
「話して下さい、そのままのこと。ベンチであったことから、そのまま。」
女が落ち着いて誘導してくれるので、少し自分も落ち着いて来た。
しかし、ベルトはより強く握られている感がある。
女にしても思っていることを家族に伝えられるラストチャンスだと思っているのかもしれない。
手に握った御守をよりギュっと強く握って、公園で初めて女に会った時からのことを話し始めた。
そもそも自分が第一発見者かどうかも疑わしいと思われそうだけど、二人はそこについては何も言って来ない。
二人とも、特に妹さんは頷きながら自分の話を黙って聞いてくれている。
ひと通り話した後、握り締めていた御守を見せた。
「今までお話したことは自分でもちゃんと理解出来ているのかわかりません。でも、本当のことで、それで今はいないけど同僚と一緒に女性を見つけました。」
「お姉ちゃん、いま、います?」
妹さんが思い切った感じで聞いて来た。
お母さんも戸惑いながら、すがる表情で自分を見て来る。
「自分の後ろに・・・、いらっしゃいます。」
二人が同時に自分の背後を見やった。
女が自分の二の腕をグっとシャツごと掴んで来た感じがする、スーっとした冷えた感触。
「それで、お願いがあるんです。」
「・・何でしょうか。」
「女性からのお願いなんですけど、お二人がとてもお辛いことは女性も重々理解していますと。それで女性自身も辛いそうなんです。」
「・・はい」
妹さんが女が掴んでいる自分の腕と逆の腕を掴んですすり泣き始めて、それを見たお母さんも目頭にハンカチを押し当てている。
「それで、何て言うのか、あの、このままだとずっとここにいないと行けなくなるらしいんです。」
「・・・」
「それで、あの、ここじゃないところ・・、女性が落ち着くところへ行きたいそうなんです。それで・・」
妹さんは泣き崩れて自分にしがみついてきた。
「どうしたら良いんでしょうか。。?」
お母さんが気丈な感じで聞いてくれた。
「忘れるとかほっぽり出すとかじゃなくて、その、言い方が合っているかわからないんですけど、あの、、強く、こう、、、可哀そうとか不幸と思い続けないで、じょ・・成仏って言うんでしょうか、その、あの、不幸な亡くなり方されているんですけど、その、天国へ行くって言うんでしょうか。そういう、あの、感じに思って欲しいそうなんです。。」
「・・・」
「そうじゃないと、ずっとこの場所に辛い怖い思いのままいないといけないらしいんです。」
「あの子がそう言っているんですね。。」
お母さんが少し安堵の感じで言って、女が妹さんの頭をフワっと撫でるのが見えた。
「そのように希望されています。。それで、これ、さっきの話の住職さんが女性に差し上げて下さいと。」
握っていた御守をお母さんに差し出した。
お母さんが御守を両手で握り締めた。
自分の腕を掴んでいた女の手がフっと一瞬、人の温もりに感じられた。
「・・有難う御座います。」
お母さんが御守を見つめながらお礼を言ってくれた。
二人に住所を聞いて、後日お線香を上げに行かせて貰うことにした。
公園の入り口まで二人を見送った。
妹さんはお母さんに支えられるように、タクシーに乗り込んで帰って行った。
タクシーが見えなくなるまで見送った後、ベンチまで戻った。
もう日差しがベンチをギンギンに照らしている。
「ちゃんと伝えられたかな?」
シャツのポケットの御守をギュっと握り締めて、頭の中で女に問い掛けた。
ベンチの下の陰で小さく咲いている花が、嬉しそうに頷くように揺れていた。