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【短編小説】 霊感タオル その4

「お早う。これ持って来た。」

タオルを田島にポイっと渡した。

受け取ったタオルを田島が引っ張ったり伸ばしたりしていたら、急に両端の縫い目を凝視し始めた。

「何? ほつれてる?」

凝視しているところを一緒に見たけど、タグがあるだけで、まだまだ新品の下ろしたての単なるタオル。

「何か面白いことがあったら教えてね。」

クスリともせずに田島がタオルを返して寄越した。

「そうだな、濡らして振り回すと冷え冷えだぜ。」

早速教えてやったけどスルーされた、何なんだ。


本日も絶好調な夏日全開。

この感じで外回りは単なる拷問だろう。

パチンコ屋にでも入ってキンキンに涼みたいけど、残念ながら軍資金が無い。

頭もボ~っとし始めたところで、止むを得ずフラフラっと例の公園へ休憩のつもりで入ってしまった。

この暑さはマズイと危険を感じ、タオルを濡らしてブン回しをして、まずは首を拭う。

続いて顔とワキ。

タオルが汗にまみれたところでワシワシとこすり洗いをして、またブン回しして首に巻いた。

どっか座りたい・・キョロキョロしてみると、このクソ暑いのになぜかベンチはみんな埋まっている。

ただひとつ例のベンチだけが、木陰にも関わらず空いていた。

どうしても座って休みたかったから、渋々ベンチに行ってなんとなく端に座った。


タオルは氷みたいにキンキンですこぶる気持ち良い。

首に巻きつつ、余ったところで顔にもペタっと付けた、冷え冷えフォウ!

「聞こえます?」

頭の中に直接また声が入って来た。

タオルから顔を上げると、いつの間にかこないだの女が隣に座っている。

座っているけど、ベンチもバッチリ見えている、何だこりゃ??!

ものっすごく顔色が悪いけど、しかし顔立ちは悪くない、むしろタイプと言っても良い美人。

「何でしょう・・・?」

とりあえず返事をしたら、前を通った親子連れがヘンな顔をして通り過ぎた。

この女は・・・夏に定番のあちら方面の人で間違いが無さそうだ、親子には自分しか見えていないらしい。

「見えているし、聞こえているんですね。」

か細い声で女が話し掛けて来た、直接頭の中へ。

「暑いですねぇ、これ、飲みます?」

努めて落ち着きながら、麦茶のペットボトルを差し出してみた、確認のため。

確かめたい、本当はこっちの人かもしれないし、暑いから目の錯覚でベンチがブレて見えていると思いたい。

「いえ、結構です・・・」

謙虚で上品な手振りが麦茶のペットボトルをヒラヒラっと通過する。

残念、確定です!

「見つけて欲しいんです。酷い目に遭って・・・」

もう話を聞くことが決定しているらしい。

「ひ、、酷い目と言いますと?」

暑さと現実感の無さがノドをどんどん乾かせる。

「どうぞ、お飲み下さい。きょうは暑いようですから。」

気遣われた!

「じゃ、失礼して・・・」

震える手で何とかキャップを開けて、ゴクゴクと麦茶を飲んだ。

「全然知らない男性から好意を持たれていたようなんです。どこかで私のことを見かけて、それで。」

「はぁ・・」

好意・・、確かにこっちの人だったら、自分も相当に高評価です。

「仕事の行き帰りに後を尾けられていたようなんです。それで私のマンションを知ったみたいで。。」

頷きながらも麦茶を飲まずにいられない。

「何回も後を尾けて、部屋の明かりが点くタイミングでどこの部屋か確認していたそうです。それで郵便受けのハガキを勝手に取り出して私の名前と電話番号がわかったそうです。」

うわ! ネットニュースで見たストーカーそのままの行動!!

「二か月位前に電話が掛かってきまして、無言電話だったんですけど。非通知だったので、誰かわかりませんでした。」

「はい・・」

「会社の帰りに頻繁に電話が掛かってくるようになりました。最初の頃は無言だったんです。その内に電話なのに凄く近い距離の音で『近くにいるよ。見守っているよ。』って」

「えええ!」

思わず鳥肌が立って声に出してしまった、いるのかホントにそんなヤツ。

「ですよね、、もう気持ち悪くて・・・」

女が腕をさすりながら身震いしている。

か弱い感じが青白い幸薄さと相まって、一段と美人度を増した。

大丈夫ですよ!のつもりで腕をポンっとしたつもりが、スカっとすり抜けた。

そうだった、あっちの人だった。

全く気にしない感じで、女は話を続けた。

「ひと月位前から、どうも部屋にいる時に違和感を感じるようになって。相変わらず電話も掛かってくるんです。『千波、お帰り』って名前で呼び始めたんです。」

「ちなみって?」

「あ、私の名前です。千の波と書いて、ちなみと申します。」

「僕は浜波と申します。」

「珍しいお名前ですね。」

「そうですね、日本でも少ないみたいです。父が富山出身で、富山には多いらしいんですけど。同じ波が付きますね。」

「そうですね、フフ、、」

口元を隠しながら笑う感じに上品さが見え隠れする、あっちの人だけど俄然興味が湧いて来た。

「それで?」

「あ、すいません。それで、どうもどこからか部屋を覗いているのか何なのか、詳細な部屋の様子を電話で言ってくるんです。『部屋がちらかっているね』とか『きょうはもう遅いよ。寝ないと明日も仕事だろう』とか。」

「うわ、怖いですね。」

「ええ、もう怖くて。しかも話す内容が合っているから、ますます。それで交番へ相談に行ったんです。思い切って。」

「ええ、それが良いです。何か合ったら大変ですから。」

「・・ええ。」

あ、『何か合った』からあっちにいるんだった!! うっかりした。

「でも、何かあってからじゃないと、どうにも出来ないって。」

「ああ、もう、ニュースで良く聞く話ですね! 何かあったらどうするつもりなんだ!」

「そうなんです、本当に・・」

あれ? なんの話かわからなくなってきた。

「とりあえずパトロールをするようにします、と。それと電話のあった時間や内容を記録しておいて下さいって。危険を感じることがあったら、110番するようにって。」

ベタな流れにイライラしてきた。何ですぐに手段を講じてあげないのかと。

「その日の夜に『警察に行くなんておかしい、好きだから見守ってやっているんだ!』って物凄く怒った感じで電話がありました。怖かったので、すぐに切ったんですけど。何度も何度も掛かってきて、同じことを言うんです。。」

「怖かったですね。。。」

悲しそうに女が頷いた。

「すぐに110番したら、連絡は行っていたらしくて、パトロールしますと言ってくれました。」

「うんうん、良かったですね。」

フっと何の気配も無くなって、頭もすっきりとした。

隣を見たら女が消えていた。

「あの・・」声にも小さく出して、念のために念も送ってみたけど、もう何も『聞こえ』なくなっていた。

木陰からすっかり外れていて、がっちりした日差しがベンチ一帯を照らしている。

汗で濡れていたシャツもタオルもすっかり乾ききっていた。




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