#30 留学していた頃の自分の部屋が大好きだった
オランダ留学中、ぼくは生まれて初めての一人暮らしをしていた。
そこは大学の寮ではあったが、シェアハウス・ルームシェアのようなものではなく、キッチンもシャワーも完全に個人用のものがある、ワンルームのアパートみたいな1人部屋だった。
かつては病院だったというその家は不思議な家具の配置になっていて、部屋に入るとすぐ左にベッド、右には洗面所・シャワー・トイレがあった。洗面所とシャワー・トイレの部屋には換気扇がなかったので、なるべくドアを開けっ放しにする必要があったが、比較的清潔で気に入っていた。ちなみに鍵もないが、まあ一人暮らしだから良し。
進むと本棚やテーブルがあり、右奥にキッチンがある。コンロは2口あったが、このコンロが鉄板のようなものになっていて、それが温まって上の鍋やフライパンに熱が伝わる、という形だった。おかげでコンロが温まりにくくて冷めにくく、火加減がめちゃくちゃ難しかった。
玄関から見て正面の壁が全面窓になっていてとても広く、床から天井まで全面窓で、気持ちよかった。冷暖房がないので、夏は日光によって部屋の中が超暑くなる、みたいな問題はあったけれど、大きな窓のおかげで、晴れが少ないオランダで、陽の光をたくさん浴びて生活できていた。
テーブル(一つしかなかったのでご飯も勉強もここで行なっていた)には、ぼくが日本から持っていった赤べこや、人からもらったりお祭りでゲットしたりした小さな置物やぬいぐるみが飾られて、賑やかだった。壁にも、ぼくがスウェーデンやパリに旅行に行った時に買ったポスターが飾っていたし、ベッドの脇にはミッフィーとムーミンのぬいぐるみがいた。めちゃくちゃ可愛い。
最初は壁も家具も基本は真っ白の殺風景な部屋だったが、ぼくの部屋はそれなりに賑やかで、ぼくの好みが色濃く反映されたものになっていた。
そしてぼくは、その部屋がとっても好きだった。
そもそも日本の家に自分だけの部屋がない時期が長く、数年前までずっと兄と一緒の部屋を使っていた。実家なのでそんなにレイアウトなどを大きく変えることも難しいし、二段ベッドだし、勉強机は小学生の時のままだし。ぼくがどうこう自由にできる部分は決して多くない(と思っていた)。
だからこそ、何をどこにどう置くかが、全部自分の裁量で決められる自分の部屋は、自分が一国の城主にでもなったかのような気分で、とても嬉しかったし、ワクワクした。
*
ただ、最初から留学中の部屋が気に入っていたかというと、そんなことはない。
当初は、1年しか住まない部屋を飾ったり彩ったりするの、勿体無いなと思っていて、実用的なものだけ揃えようと思っていた。そんなところにお金かけるべきじゃないと思っていた。
でもそんな家にいるのがつまらなくなってきて、少しずつ実用的じゃないもの、ポスターや置物を増やしていって、部屋と一緒にぼくの心も彩られていった。
ミッフィーやムーミンのぬいぐるみも、一目見たときは買うか買うまいかめちゃくちゃ悩んだ。23歳の一人暮らしの男の部屋にぬいぐるみがあるのってどうなんだろう?と思っていた。でも勇気を出して買ってみたらすごく愛着が持てたし、しんどかった時期に救われた部分も結構あった。
そう、ぼくの部屋には、留学の中での色々な「べき」と戦ってきた歴史があった。だからぼくはあの部屋がすごく好きだったんだ。
*
毎日note