やっぱり君が好きだな
一次創作小説/オリジナルNL
※自作発言NG
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高校時代から付き合っていた彼女が妊娠した。お互い19で、彼女──麻紀に関しては大学に進学していたが、幸いと言うべきか俺が高卒で働いていたこともあり、半分義務みたいな感じでそのまま結婚。麻紀は早々に大学を中退したし、俺は頑張る他なかった。
我武者羅に頑張っていたら、気づけば娘は18となっていて娘は地元を離れ、専門学校に進学していった。
「ほおー、娘が家を出たか。これから奥さんと2人きり、それもそれで大変だな」
飲みの席で経理部の梁部部長にぽつりと言われた。
「…何が大変でしょうか、」
「そりゃお前、お互いもう愛情なんかないだろ?家内なんか俺を見る度にため息つくぞ?」
「それは、嫌ですね」
愛情…。そんなの、考える暇もなかったな。でも確かに言われてみれば娘ができて以来セックスレスだし、今さらそういう気持ちになるのかと言われるとよく分からない。あの頃と比べると俺も麻紀も歳を重ねたし、それなりにお腹にも歳の分溜まっている気もするし、見ていないから知らないけど麻紀だって同じだろう。
──学生の頃はどうだっただろうか。なんで好きになったんだったかな。確か、2年の時の美化委員会で一緒になって、その活動の中に学校の花壇整備があった。
ああ、そうだ。
『深山くん、深山くん!見て見て!あそこのお花咲いてる!』
廊下で俺が友達といるところをお構いなしに麻紀は話しかけてきて、少しだけ友達の間でそれを揶揄われた。ただ、その時の満面の笑顔があまりにも可愛くて、俺の心をさっくり射抜いたんだった。
付き合ってからも誕生日プレゼントとか、付き合って1年の時のプレゼントとか、渡す度にその可愛らしい笑顔が見れて尚更惚れ込んだんだった。
まだ、あの笑顔を向けてくれるんだろうか。
「深山くん、二次会も来るよな?」
「すみません、なんだか無性に妻に会いたくなってきたので帰ります」
「え」
まだ時間は21時前。頑張れば花屋でもケーキ屋でも寄れるだろう。何がいいだろうか。
こんなに考えてプレゼントを贈るのはいつぶりだろうか。もしかしたら学生時代以来かもしれない。笑われるだろうか。軽蔑されるだろうか。
今さら何のつもり?なんて言われたら、立ち直れないかもしれない。
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娘を産んで18年、夫は母の日には必ずお花とケーキを贈ってくれるが、誕生日プレゼント等は貰った記憶がない。
そんな彼が今日は飲み会だと言っていたはずなのに、まだ22時も回っていない時間に花束とケーキを持って帰って来た。
「……どうしたの、それ」
「…なんだか、無性に麻紀に渡したくなって」
麻紀、と最後に名前で呼ばれたのはいつだっただろう。娘が産まれてからずっとママと呼ばれた記憶しかなかった。
お互い19の時に半分義務のように結婚して、義務のように夫──かずくんは仕事を頑張る他なくて、私も義務のように子育てを頑張るしかなかった。勿論父親としての役割もしっかり担ってくれて、授業参観や学校の行事には出ていたし、娘の夏休みや冬休みにはどこか遠くに出かけたりも必ずしていた。
ただその忙しない日々の中で、愛情なんてもうないんじゃないだろうか、と不安だった。じゃあ自分はあるのかと言われたら、よく分からない。
「え、麻紀?なんで泣いてるんだ?」
驚いたようにかずくんは、花束とケーキ、鞄やらをテーブルに置いて、私の顔を覗き込んでくる。
ああ、そうだ。
学生時代、2年の時に美化委員で一緒になった。毎朝、教室に置いてある花の水を替えなきゃいけなくて、その花瓶を不注意で落として割ったことがある。ちょうどその時にかずくんが居合わせたんだった。
『それ俺やるよ、指怪我するよ?』
その割れた花瓶の片付けをそう言ってやってくれた。仏頂面で無愛想だけど、そういう優しいところが好きだった。
付き合ってからも、かずくんは必ず車道側を歩いていたし、絶対に趣味じゃないプリクラも一緒に撮ってくれていたし、他にもたくさん数え切れない小さな優しさがあった。
「ちがうのごめん、…嬉しくて」
私がそう言うと、かずくんは私を抱き締めた。抱き締められたのも、いつぶりだろう。
そういえば、付き合っていた頃はプレゼントも間目だったな、なんて思い出した。
少しだけ顔を離せば、かずくんの顔が近づいてくる。あ、キスされる。
そう思った時にはもう唇は重なってて、角度を変えて何度もされた。それも久々の感覚ですでに頭はショートしかけてた。
「ね、ねえ、もういいよ、」
「……ごめん、まだちょっと酔ってるかも」
「水、持ってくるね」
「ありがとう」
かずくんはダイニングの方の椅子に座って、やっとネクタイを少し緩める。私がかずくんの前に水を置くと、かずくんはそれを一気に飲み干して聞いてきた。
「ケーキ、明日食べる?」
「んー、まだ歯磨きしてないし、今一緒に食べようかな、いい?」
「うん、いいね」
何かノンカフェインの飲み物はあっただろうか。私がまた台所に戻ろうとすると、かずくんが袖を引っ張った。
「…また麻紀って呼んでもいいか?」
「…じゃあ私もまたかずくんって呼んでもいいかな?」
「…せめて一輝で、」
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その時笑った麻紀の顔は、あの日の笑顔と同じだった。
───ああ、やっぱり、君が好きだなあ。
深山 一輝/miyama kazuki
37歳。営業部部長。
仏頂面で無愛想。入社早々に授かり婚をしている為、当初は周りからこいつやべえみたいな感じだったが、今となっては硬派で愛妻家と噂され専ら女性社員の憧れらしい。
ちなみにこの後はもちろん麻紀のことも食べた。そしてことある毎に小さなプレゼントを渡すようになり、麻紀を寵愛するようになる。
職場の飲み会や土日の接待など(どうしても断れないのは行く)を基本蹴るようになった。
学生時代は一輝から告白して付き合い始めている。
深山 麻紀/miyama maki
37歳。趣味でハンドメイド作品を出品してる。
娘を産みだいぶ落ち着いたが、学生時代はかなりの活発っ子だった。娘「(高校卒アル見て)え?これが???ママ?????……うそだぁ〜〜〜」
学生時代、好きになったのは麻紀が先。
深山 由希/miyama yuki
18歳。美容専門学生。
母・麻紀の後押しがあって地元を離れる決心がついた。父・一輝のことも特に嫌いとかはないらしいが、父の母に対する態度が冷たいような気がして、娘ながらに離婚するんじゃないかと不安らしい。
ゴールデンウィークに帰省予定を立てている。
「え、ママ妊娠したの?」
「そうみたい、1週間くらい遅れてて、今朝検査薬使ってみたら陽性で」
「え?じゃあ何?私が出てってパパとママ、イチャイチャしてたってこと??」
「……まあ、」
「嘘でしょ!?今まで全然そんな素振りなかったじゃん!!!」
「まあ、色々あったのよ」
「もお〜〜〜〜〜いつか離婚するんじゃないかって不安に思ってた私の時間返してよ!!!!」
「それはなんかごめん…。でもほら、ママももう40手前で高齢出産になるし、まだわからないよ?」
「………で?パパはどこに行ってるわけ?」
「あれ由希、おかえり」
「ただいま、パパもおかえり。どこ行ってたの?」
「…今日実は、パパとママの付き合い始めた記念日なんだ。それのプレゼント買いに行ってた」
「そんなの初めて聞いたんだけど!!???」
「はい麻紀、ブレスレットと悩んだんだけどこっちのネックレスの方が麻紀らしいなと思って」
「うん、あとで見るね」
「しかもなに……??ママのこと名前で呼ぶじゃん…」
「あと行ってきますのキスするの忘れてごめん」
「ねえ、由希の前でそういうのはやめて…」
「…私の知ってるパパじゃない………」
─────Happy End♡笑