米国裁判例報告(新規性と販売の申出)Crown Packaging Technology, Inc. v. Belvac Production Machinery, Inc. (CAFC case No. No. 22-2299, decided Dec 10, 2024) [試行] ※ 当記事は試行であり、法的助言を与えるものではありません。全ての情報はその正確性と現在の適用可能性を再確認する必要があります。

事件名
Crown Packaging Technology, Inc. v. Belvac Production Machinery, Inc.
米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)事件番号: No. 22-2299
判決日: 2024年12月10日
https://cafc.uscourts.gov/opinions-orders/22-2299.OPINION.12-10-2024_2433117.pdf

適用法
本事件では、特許の出願日がAIA(America Invents Act)改正前である2008年であるため、AIA改正前の特許法が適用された。すなわち、本事件の判断にはAIA改正後に導入された“先願主義”ではなく、改正前の“先発明主義”および関連する“販売の申出”規定(35 U.S.C. § 102(b))が適用されている。

事案の概要
Crown Packaging Technology, Inc.(以下“Crown”)は、飲料用金属缶の製造過程で使用される“ネッキングマシン”に関する3つの特許(米国特許第9,308,570号、第9,968,982号、第10,751,784号)を保有していた。これらの特許は、缶の上部を絞る工程を効率化する技術に関連するものである。最先優先日は2008年4月24日であり、特許法上の“クリティカルデート”はその1年前の2007年4月24日とされた。

Belvac Production Machinery, Inc.(以下“Belvac”)は、Crownがこのクリティカルデート前に、特許発明に関連する“販売の申出”を行ったと主張し、特許の無効を求めて訴訟を提起した。

裁判所の判断
CAFCは、Crownが2006年11月14日にComplete Packaging Machinery(以下“Complete”)に送付した“Quotation Number Q22764”と題する文書に注目した。この文書には、13段階の“3400 Die Necker”の詳細、価格、納期、支払い条件が記載されており、具体的な商取引の意図が示されていた。

CAFCは、この文書が“販売の申出”に該当するかを判断するため、以下のポイントを検討した。

  1. 具体性の程度
    文書には、特許発明に関連するネッキングマシンの詳細な技術仕様と価格が明示されており、一般的な交渉段階の提案や見積もり以上の具体性が認められた。

  2. 商業的取引の意図
    文書に記載された支払い条件(注文時に50%、納品時に残りの50%)および納品先が指定されている点は、実際の商業取引を意図していることを示していると判断された。

  3. 特許発明の公開性
    提案されたネッキングマシンが特許発明の技術的要素を実質的に含んでおり、クリティカルデート前に特許発明が公然と利用可能となったと認定された。

以上を踏まえ、CAFCはCrownの特許が35 U.S.C. § 102(b)(pre-AIA)の“販売の申出”条項に違反しており、無効であると判断した。

関連判例
本件に関連する重要な判例として、Helsinn Healthcare S. A. v. Teva Pharmaceuticals USA, Inc.(139 S. Ct. 628, 2019)が挙げられる。この判例では、特許発明の商業的販売または販売の申出が“秘密保持契約”下で行われた場合でも、35 U.S.C. § 102(b)に基づき“公然”とみなされる可能性があることが示された(ただしAIA改正法)。本件では、AIA改正前後の相違はあるがHelsinn判例が示した“販売の申出”の具体性や商業的取引の意図に関する基準と同様、Crownによる文書が“公然”であると判断された。

評釈
本判決は、“販売の申出”に関する35 U.S.C. § 102(b)の適用基準を明確化する重要な判例として位置づけられます。特に、以下の点が注目される。

  1. 技術仕様と商業的意図の関係
    CAFCは、技術仕様の詳細が商業的取引の具体性を裏付ける重要な要素であるとしました。この判断は、単なる提案や交渉段階のやり取りではなく、取引の具体性を示す文書が“販売の申出”とみなされる可能性を示唆している。

  2. クリティカルデート前の公開性の検討
    本件では、特許発明がクリティカルデート前に商業的に利用可能であったことが認定された。この点は、特許出願における発明のタイミング(現行法では出願日が重要である。)と米国特有の「新規性破壊行為」が特許の有効性に直結することを改めて示している。

  3. Helsinn判例との関係
    本件では商業的取引に関連する文書の具体性や意図が“販売の申出”の要件として重視された。本件は、Helsinn判例を考慮すると、AIA改正法においても同様に適用される可能性があるため、現時点の実務における重要な指針を提供しているといえる。

結論
本判決は、特許出願前の商業活動における慎重な対応が特許の有効性にとって極めて重要であることを示す。特許権者は、商業的な提案や契約交渉において、特許出願前の発明公開につながる可能性を十分に考慮しなければない。本判決は、特許出願前の“販売の申出”が特許の有効性に与える影響について、実務上の貴重な教訓を提供するといえる。

まだ判決が出て5日しかたっていない。生成AIを活用した判例速報プログラムを、試験的にCAFC判決においても行ったものであるため内容に正確性が担保されていない点ご留意いただきたい。

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