FDA対Alliance for Hippocratic Medicine事件米国最高裁判決(602 U.S. 367)[試行] ※ 当記事は試行であり、法的助言を与えるものではありません。全ての情報はその正確性と現在の適用可能性を再確認する必要があります。

https://www.supremecourt.gov/opinions/23pdf/602us1r35_h3ci.pdf

1. 事案の概要

本件は、ミフェプリストン(妊娠中絶薬)のFDA承認および規制緩和を巡って争われた訴訟である。原告は複数の反中絶医師および医療団体であり、FDAが行った2016年および2021年の規制緩和が行政手続法(APA)に違反するものであると主張した。原告らはFDAの決定の無効化およびミフェプリストンの承認取り消しを求めた。下級審は原告に有利な判断を示し、FDAおよび製薬会社Dancoがこれを上訴した。

本判例は、最高裁が原告の訴訟適格(standing)を否定し、原告の主張を斥けた事案である。


2. 法的争点

本件の主要争点は以下のとおりである。

  1. 訴訟適格(Standing)の有無

  2. FDAによる規制緩和が行政手続法(APA)の要件に適合するか。

最高裁は、訴訟適格がないことを理由に原告の主張を棄却した。

3. 最高裁の判断

判旨の要点は以下のとおりである:

  1. 訴訟適格の欠如

    • 連邦裁判所が事件を審理するには、原告は**具体的かつ実際の損害(injury in fact)**を立証する必要がある。

    • 本件において、原告ら(医師および団体)がFDAの規制緩和によって直接的・具体的な損害を受けたことを示す証拠は存在しない。

    • 原告が示した「患者に対する対応負担の増大」や「倫理的信念の侵害」は、憲法第3条が要求する「具体的な損害」には該当しない​。

  2. 第三者の権利主張(Associational Standing)への疑義

    • 団体訴訟適格(associational standing)に依拠している点も問題視された。

    • 最高裁は、団体が自らの権利ではなく、構成員の権利を代理して訴訟を提起することには慎重な姿勢を示し、構成員個人が法廷に立たない限り、適切な救済が不可能であると指摘した​。

  3. 政治的プロセスの優位性

    • 司法権の役割は「具体的な権利侵害」に基づく紛争解決であり、単なる政策的・道徳的な不満は立法府や行政府に訴えるべきである。

    • FDAの決定に異議がある場合、政治的手続きや規制の見直しを通じて解決すべきとされた​。

4. 判例の意義

本判例の意義は以下の点に集約される:

  1. 訴訟適格基準の再確認

    • 最高裁は、連邦裁判所の司法権限を厳格に解釈し、原告が具体的な損害を証明しなければならないことを明確にした。

    • 団体訴訟適格に対する新たな制約が示唆され、将来的にこのドクトリンの見直しも検討される可能性がある。

  2. 政策決定の場の限定

    • 法廷は政策論争の場ではなく、立法府や行政府が責任を持つべきであるとする「分権の原則」が強調された。

  3. 医薬品規制と行政手続法

    • FDAの判断に対する異議申し立ては厳格な基準で審査され、規制の変更は科学的根拠と適正な手続きが整っている限り、尊重されるべきと示された。

5. 結論

「FDA対Alliance for Hippocratic Medicine事件」は、行政機関の裁量権と司法審査の限界を再確認した重要な判例である。本件を通じて、訴訟適格の厳格な基準と分権の原則が再確認され、団体訴訟適格に対する将来的な議論の端緒が示された。

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