オレンジブックとリスト掲載の可否。有効成分自体でなければだめなのか?:Teva Branded Pharmaceutical Products R&D, Inc. v. Amneal Pharmaceuticals of New York, LLC[試行] ※ 当記事は試行であり、法的助言を与えるものではありません。全ての情報はその正確性と現在の適用可能性を再確認する必要があります。
オレンジブックのリスティングに関する裁判例が出たようです。以下また試行しています。
事件名: Teva Branded Pharmaceutical Products R&D, Inc. v. Amneal Pharmaceuticals of New York, LLC
裁判所: 米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)
判決日: 2024年12月20日
https://cafc.uscourts.gov/opinions-orders/24-1936.OPINION.12-20-2024_2439730.pdf
事案の概要
本件は、Teva Branded Pharmaceutical Products R&D, Inc.(以下、テバ)が保有する特許と、それらをオレンジブックにリストする適切性が争点となった特許紛争である。テバは、喘息治療薬であるアルブテロール硫酸塩(サルブタモール硫酸塩)を含む吸入器に関する複数の特許をオレンジブックにリストしていた。一方、ジェネリック医薬品メーカーのAmneal Pharmaceuticals of New York, LLC(以下、アムネアル)は、同成分を含むジェネリック医薬品の承認を目指していたが、テバの特許がFDA承認手続きを妨げていると主張した。
アムネアルは、テバの特許が有効成分そのものではなく、吸入器装置や構成要素に関するものであると指摘し、これらの特許をオレンジブックから削除するよう求めた。
争点となった特許
本件で争点となった特許には以下が含まれる。
U.S. Patent No. 8,132,712 ("the '712 patent")
U.S. Patent No. 9,463,289 ("the '289 patent")
U.S. Patent No. 9,808,587 ("the '587 patent")
U.S. Patent No. 10,561,808 ("the '808 patent")
U.S. Patent No. 11,395,889 ("the '889 patent")
代表的なクレームとして、'712特許のクレーム1を挙げる。
A metered-dose inhaler device comprising:
(a) a canister containing a pharmaceutical formulation comprising albuterol sulfate as an active pharmaceutical ingredient;
(b) a metering valve coupled to the canister for dispensing a metered dose of the pharmaceutical formulation; and
(c) a mouthpiece for delivering the metered dose to a patient.
このクレームは、吸入器デバイスの構成(カニュスター、メーターバルブ、口部装置)を規定するものであり、有効成分であるアルブテロール硫酸塩(albuterol sulfate)自体の化学構造や特性を直接保護するものではない。
有効成分と特許クレームの対比
アルブテロール硫酸塩の具体的な構造:
分子式:
化学名: (RS)-1-(tert-ブチルアミノ)-3-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロパノール硫酸塩
構造の特徴: フェノール基(-OH)を持つ芳香環と、β2-アドレナリン受容体刺激薬としての活性。
これに対し、テバの特許クレームは主に吸入器装置の物理的構成を対象としている。有効成分を「含む」とは記載されているものの、有効成分そのものの構造や作用機序については特許の範囲に含まれていない。
下級審と連邦巡回控訴裁判所の判断
ニュージャージー州地方裁判所は、アムネアルの主張を認め、テバの特許が有効成分そのものをカバーしていないと判断した。その結果、これらの特許をオレンジブックから削除するよう命じた。
テバはこれを不服としてCAFCに上訴したが、CAFCも下級審の判断を支持した。裁判所は、オレンジブックにリストされるべき特許は、医薬品の有効成分やその使用方法を直接カバーする特許に限定されるべきであり、吸入器装置の構成に関する特許はリストの対象外であると判断した。
判決の意義
本判決は、オレンジブックへの特許リストの基準を明確化した重要なものであり、以下の意義を持つ。
基準の明確化: オレンジブックにリストされる特許は、有効成分やその使用方法を直接保護するものでなければならない。
競争促進: ブランド医薬品メーカーがデバイス関連の特許を利用してジェネリック医薬品メーカーの市場参入を遅らせる行為を防止。
ジェネリック医薬品の承認促進: 不適切な特許リストによるFDA承認の遅延を回避。
結論
本件判決は、公正な市場競争を促進し、ブランド医薬品メーカーとジェネリック医薬品メーカーの間の特許戦略に影響を与える重要な判例である。日本で議論されているパテントリンケージやオレンジブックの運用にも指針となるものと考えられる。