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「業務設計」というスキル

こんにちは、BYARDの武内です。
イーロン・マスク』を読了して、パッと読みたい新刊がなかったので、10年ぶりぐらいに『7つの習慣』を読み直しています。

コヴィー博士はすでにお亡くなりになっていますが、原則(Principle)を重視する本書の内容は少しも色あせず、事業を興した今読むことで新たな発見がたくさん得られますね。

さて、今回のnoteは私がBYARDというプロダクトを作った原点である「業務設計」というスキルについて書いていきます。


1.「資格」(免許)は業務遂行能力を証明しない

世の中には様々な資格があります。経理分野の日商簿記検定(正確には「資格」ではないですが、実質は資格のように扱われています)や、税理士、社労士、弁護士などの国家資格、SalesforceやOracleなどの企業が作った独自の資格も存在します。

資格について取得の難易度が高いものもあり、国家資格についてはその資格がなければ行うことができない独占業務も多数ありますし、難関資格を取得して独立する人もたくさんいます。

私自身も税理士の資格を有しており、たくさんの税理士や公認会計士の人にお会いする機会があります。みなさん難関試験を突破されて資格を取得されており、一定以上の知識はお持ちなのですが、それが業務遂行能力に直結しているかといわれると、そこに相関はあまりありません。

私の大学時代の恩師は「社会人になれば情報はいくらでも調べながら仕事をすることができる。だから、私の試験はすべてのテキストが持ち込み可能である。ただし、ゼロから調べていると時間が足りないし、テキストの内容を書き写すような問題はださないから、そのつもりで。」とよく言っていました。

Googleのおかげで私たちは表面的な情報(Information)についてはいつでも無料で即座にアクセスできるようになりましたし、仕事をする上ではそれらの情報をふんだんに活用することが可能になっています。

インターネット(及びGoogle)が登場する前の社会では「専門的な情報」にアクセスできることに大きな価値があり、そのアクセス権を「資格」が担っていました。それが現代では、情報へのアクセスはすべての人に開かれてしまったため、「情報を伝える」だけでは価値が発揮できなくなっています。これが「資格を取っても食べていけない」士業の実態です。

インターネット上には真偽の分からない様々な情報が溢れていますので、一定レベルの知識がなければ真偽の判断をすることが難しいのですが、「情報」にアクセスできることに対する価値が下がってしまったことは間違いありません。

専門家や経理、労務などの専門知識が必要な職種についても、知識の有無よりも業務遂行能力が重視されてるようになってきています。

しかし、資格試験のペーパーテストは相変わらず暗記偏重です。資格を持っていることと、業務遂行能力があることはイコールではなく、企業側もそのことに気づき始めています。

色んなところで「資格を取った方がいいですか?」「日商簿記1級に受かっていると給料が増えますか?」といったことを聞かれますが、単に情報をインプットする目的に難関資格を取得する意味は薄れています。

資格はないよりもあった方がもちろんいいですが、仕事で成果を出すことを第一に考えるのであれば、目の前の業務に注力し業務遂行能力を高めていく方がいいと思います。

なお、国家資格には取得しなければできない業務がある場合も多いので、その仕事をするためには試験を突破する必要がありますが、あくまでもそれは入口の話であり、ここで言いたいのは資格があることは業務遂行能力があることとイコールではない、ということです。

2.教えるのではなく、できるようになって欲しい

(1)簿記検定は知識でしかない

ここからは分かりやすいように、日商簿記検定と経理業務の関係を考えていきます。

経理担当者に限らず、ビジネスの基礎知識を取得するために受験する人が多い日商簿記3級は、貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)、勘定科目、複式簿記(仕訳)といった企業経営のベース知識を学ぶことができます。

商業高校や商学部の学生には必須科目ですし、経理部門に配属された新人も「まずは簿記3級を取って」と言われますが、経理実務をやったことがある方なら分かると思いますが、日商簿記3級を合格したからといってそれは実際の業務とは全く別物です。TOEICが900点以上あることと、英語でビジネスができることが別なのと同じです。

簿記や会計の概念、勘定科目や仕訳といった基礎知識を身につけ、財務諸表を読めるようにするための勉強としては非常に有効です。経理処理を行う上では、単に勘定科目を知っているだけではなく簿記一巡などの一連の流れを理解する必要があり、簿記3級の問題を手を動かして解くことには意味があります。

一方で、簿記2級、1級とレベルを上げていけば経理の実務能力が上がるかといわれると、全くそんなことはありません。原価計算や工業簿記、連結の処理など知らないよりは知っていた方がいいことは間違いありませんが、日々の経理処理をするには、簿記3級の知識をベースに分からないことは本を読んだり、Googleで都度調べたり、先輩に聞いたりして身につけていけば十分でしょう。

簿記検定などのペーパーテストの限界として、「前提とする情報がすべて用意されている」というものがあります。テストを解答する上で当たり前のことなのですが、逆に実務の場面では情報が完璧に揃っていることの方がまれです。

また、簿記検定では勘定科目や仕訳についての正解がありますが、業種・業態やビジネスモデルによって正しい処理は変わってきます。利益についても、日本基準とIFRSでは異なります。

知識としてのインプットも重要ですが、実務能力としてのアウトプットにつなげるためには資格試験の勉強をするだけでは不十分なのは明らかです。

一方で、ERPやfreeeなどの実務処理に根ざしたソフトウェアが登場することによって、仕訳を切る局面はどんどん少なくなっていっていますが、そうなるにつれて簿記一巡や会計原則などの基本的な概念の理解が逆に重要になってきます。小手先のテクニックではなく、本質の理解が必要不可欠なのです。

ノーコードのツールなども同じですが、「簡単に作れる(処理できる)」からといって、知識がない人や理解度が低い人が行った処理は後からトラブルを招くケースが多数あります。

簿記3級などは仕訳百問などの反復練習を繰り返すことで短期合格することはできてしまうのですが、そのような勉強方法では基礎となる概念の理解はスルーしてしまうため、実務上の知識としては使いものになりません。

かといって、机上のお勉強と実務を完全に別物にしてしまうのももったいないことです。「頑張って勉強した」ことと「合格した」ことの差は天と地ほども違うので、合格するためのテクニックを否定するつもりはありませんが、具体レベルの処理を抽象レベルの理解まで昇華しておくことが不可欠です。デジタル化が進み、人間の作業レベルでの処理が軽減されるほどに処理をするためのスキルではなく、きちんとした知識の取得が求められるようになっているからです。

freeeの「取引」という概念の理解などはその典型でしょう。日々回ってくる請求書や領収書をひたすら仕訳入力することが経理だと思っていると、一段高い視座から見た「取引」は理解ができません。

デジタル化の本質は処理の高速化ではなく、業務プロセスそのものの変革にあります。トヨタ生産方式を単なるサプライチェーンの統合だと誤解してしまうと効果が限定的になってしまうのと同様に、DXを単なるデジタルツールの導入だと捉えてしまうと生産性の向上にはつながりません。

知識→実務→知識→・・・というサイクルを回すことで、具体を抽象を行き来することで理解が深まっていきます。資格試験の合格はゴールではなくスタートだというのはそういうことです。

(2)実務スキルとしての「業務設計」

「DX」という言葉がバズワードになっていった時期は、ちょうど私自身が新しいサービス開発していた時期でもあったので、色んなところで「DX推進」をテーマにした登壇を依頼されてきました。

主催者や視聴者は「どのツールを入れれば楽にDXできるか」という話を聞きたいであろうことは百も承知で、あえて「業務プロセスの再構築」が不可欠であるという話をここ2、3年はずっとしてきました。DXブームが下火になったことで一周回ってこの重要性がようやく理解されてきたような気がしています。

「業務設計」というスキルは、業務プロセスを可視化することだと誤解されていることが多く、業務の棚卸しや業務フローの構築を外部のコンサルタントにやってもらうことを多くの企業が選択してしまいます。

しかし、業務設計の本質は業務プロセス改善のPDCAを高速で回し続けることであり、業務の棚卸しや業務プロセスの可視化はそのスタートラインに過ぎません。

コンサルタントに高額な費用を払って作成してもらった立派な業務フロー図や業務記述書も、運用しながら改善し続けていくことができなければあっという間に形骸化してしまいます。

ほとんどの企業では業務の可視化・構造化ができていないので、確かに業務の設計図を描くだけで、すぐに効果は現れるのですが、その効果は長続きしません。

そういう観点から私はずっと「業務設計というスキルを身につけて、自分たちで業務設計のPDCAを回そう」という風に提唱してきました。しかし、ことあるごとに「どうすれば業務設計ができるようになりますか?」という風に聞かれてもきました。

業務プロセスを可視化するだけでも、業務全体を抽象化して整理する必要がありますし、それを運用に落とし込み、そこから振り返り、改善まで一気通貫で行うとなると業務全体をしっかり掌握(Control)する知識や経験が必要不可欠になってきます。

かなり総合的なスキルになっており、どうやってこれを身につければいいのか、どういうトレーニングをすればいいのか、ということは私自身もうまくお答えすることはできませんでしたが、一部のコンサルタントだけが提供できるだけでは、課題の大きさに対して不十分なことは明らかでした。

BYARDというプロダクトは、私自身が業務設計をする上で欲しかった機能を統合したものです。Excelやタスク管理ツール、プロジェクト管理ツール、マニュアルなどに散らばっている情報を一箇所に集めて、かつ、業務の流れに沿って自然に改善サイクルが回るように工夫をして、開発を進めてきました。

最初は機能が十分ではなかったこともあり、Excelやタスク管理ツールとの違いがなかなか理解されてなかったのですが、ローンチから1年が経ち、基本的な機能が揃ってきたことで、「こういうのが欲しかった」と言ってもらえる機会が増えてきました。

また、お客様からのフィードバックの中でも一番嬉しいのが、「業務プロセスなどを設計したことがない担当者が、業務全体を見て、改善を提案したりすることができるようになった」というものです。

そう、業務設計というスキルは、よく知っている自社の業務プロセスに対して行うのであれば、何もそんなに特別で難易度の高いスキルではないのです。ただ、現場の業務の視点(虫の目)、マネジメントの全体を俯瞰し管理する視点(鳥の目)、複数人で行う業務の流れを把握する視点(魚の目)を意識して業務プロセス全体を見るということが、これまでExcelやタスク管理ツールでは不可能だったというだけです。

どのような業務スキルにも、それを実現するための適切なツールが必要不可欠です。BYARDというプロダクトはそのためのツールとして開発しました。

そして、オンボーディングやカスタマーサクセスによる支援を通じて、強く意識しているのは導入した企業の担当者自身(広くはすべての従業員)が業務設計というスキルを身につけ、自ら業務プロセスを設計し、改善し、生産性の向上を実現することができるようにすることです。

近年のBtoB SaaSはPLG(Product-Led Growth)型のプロダクトが多いのですが、「業務設計」というスキルがまだまだ浸透していないこともあり、ここにリソースと手間をかけるという意思決定をしました。もちろん、その分セルフサーブ型のSaaSと比べると利用料は高くなりますが、導入企業のマネジメント層の方からは「安くて使いこなせないツールよりも、少し高くてもしっかりと導入して運用まで持っていけるツールの方が良い」というフィードバックもいただいております。

老子の格言で、『授人以魚 不如授人以漁』(飢えている人がいるときに、魚を与えるか、魚の釣り方を教えるか)という言葉があります。「人に魚を与えれば一日で食べてしまうが、釣り方を教えれば一生食べていける」という考え方です。

私たちはBYARDというプロダクトを通じて、多くのビジネスパーソンが「業務設計」というスキルを身につけ、業務プロセスを改善し、企業の生産性の向上させることにこれからもコミットしていきます。

BYARDのご紹介

BYARDはツールを提供するだけでなく、初期の業務設計コンサルティングをしっかり伴走させていただきますので、自社の業務プロセスが確実に可視化され、業務改善をするための土台を早期に整えることができます。
BYARDはマニュアルやフロー図を作るのではなく、「業務を可視化し、業務設計ができる状態を維持する」という価値を提供するツールです。この辺りに課題を抱える皆様、ぜひお気軽にご連絡ください。

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武内俊介@業務設計士
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