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タクミのシクミ化

こんにちは、BYARDの武内です。

タイタン』というSF小説を読みました。

汎用AI「タイタン」の登場によって、人間が仕事や貨幣経済から解放された2205年を舞台にした小説です。よくある近未来のディストピアやシステムvs人間を描いたものかな、と思ったのですが、いい意味で期待を裏切られる内容で面白かったです。AI・タイタンとカウンセラーである主人公がカウンセリングを通じて、「働くとかはなにか」というテーマについて探究していくという近未来版『ソフィーの世界』といった読後感のある作品です。

AIとはなにか、をちょっと違う切り口から考えるきっかけになる作品ですので、思考実験のひとつとしてオススメです。

さて、BYARDは4月末にJapan IT Weekに出展してきました。これまでの「業務効率化」「業務改善」ではなく、「オペレーションの統制」「新人の早期戦力化」「業務プロセスの可視化」を中心にした訴求に変えたところ、これまでの展示会で最も多くの企業様と名刺交換をさせていただくことができ、かつ、展示会後の商談も順調にセッティングできています。

プロダクト側も今月・来月ともに大きな機能のリリースを控えており、より多くの業務において活用いただけるように開発を進めております。

今回のnoteはターゲットや戦略などを転換しつつあるBYARDにおいて、今私が実現したいことを書いていきます。


1.タクミは素晴らしいが・・・

(1)職場のキーパーソンであるタクミ

優れた技術を持った職人を指す言葉。工匠。伝統的な職人の究極的な技術を保持し、尚且つ、後進の技術者に対して自分の持っている技術を披露し、指導するなど人間的にも尊敬される立場の人を言う。

wikipediaより引用

本noteにおいての「タクミ」はこちらの定義ほどではなくても、各職場における「凄いスキル(なかなか真似できない)を持ったベテラン」ぐらいの意味合いです。同じく「シクミ」もガチガチの「仕組み」化ほどではなくとも、ある程度のルール化や標準化ができていることを指します。(よって、あえてカタカナで「タクミ」「シクミ」と記述します)

バックオフィスでも、開発部門や営業部門でも、「えっ?!なんでそんなところまで把握してるの?」とか「どうやって、それが大丈夫だって判断してるの?」みたいな能力(嗅覚?)を持ったベテランはどの職場にもいらっしゃると思います。

第六感と言ってしまうと言い過ぎかもしれませんが、知識と経験、そして情報の巧みな把握と整理によって、常人には見えない景色(情報)が見える、だから的確な対応や判断ができる。それがタクミです。

例えば、経理だと試算表や推移表をパッと見るだけで数値がおかしいところに気付けるとか、開発だとプログラムを見てバグがある箇所を瞬時に言い当てるとか、本人もうまく言語化できるわけじゃなくても「なんかおかしい」「ここが気になる」みたいな感じで違和感が直感的に分かるという人です。

昔、非常にベテランの経理の方がいらっしゃる職場にいたことがあるのですが、生き字引というか社内で起きているあらゆることをなぜか把握されていて、月次決算の際にザッと売上を見て「あれ?!あの取引先から追加発注あったはずだけど入ってないな、ちょっと○○くんに内線かけてみるね」みたいな感じで、この方が経理の要としてあらゆるボールを拾っていることで、なんとか処理が回っている状態でした。

ただ、問題はそのノウハウを本人も言語化できないこと、そして、そのタクミに頼りきりで全く仕組み化ができない営業をはじめとした組織そのものでした。私がいたころはその方がまだまだ現役バリバリだったのですが、いつ辞めるかも分からないし、体調を崩されたり、ご家族の事情で急遽休むこともあるかもしれない。そういう可能性を考えていないわけじゃないのですが、経営陣を始めとしてその組織全体でそのリスクは見て見ぬふりをしていました。

「属人化は経営リスクである」という話を何度かセミナーなどでしたことはあるのですが、そこに危機感を抱いている人はまだまだ少ない印象です。
「今、回っているからいいじゃないか」という反論もよくされるのですが、事業は1回限りの短期決戦ではなく、ずっと継続して運営していかなければいけないものです。今回は良くても次回はどうか、次回は良くても数年後は、10年後は・・・ということを経営者は考える必要があるのではないでしょうか。

私はタクミの存在を否定しているわけではありません。知識や経験に裏打ちされたそのスキルは素晴らしく、そういう方々が多くの企業を支えているのも事実です。しかし、問題はタクミに頼りきりでシクミを作れない経営陣や組織の運営体制の方なのです。

ずっと家族経営+αぐらいの規模で事業をやっていくのであれば、タクミ頼りでもいいでしょう。しかし、事業の拡大や長期間の継続を目指すのであれば、タクミが事業を支えてくれているうちにこそシクミ化していくことは不可避です。

「いつまでもあると思うな、金とタクミ」、なのです。

(2)デジタル化と相性の悪いタクミ

日本企業の99.7%が中小企業であり、多くの中小企業はこれまで(本当の「匠」も含めて)タクミの方々が支えてきました。工業製品やバイオなどの分野には余人を持って代え難い「匠」(天才)はある程度必要ですが、社内の仕組みの不備を頑張ってタクミがカバーしている状態にいつまでも依存し続けられるわけではありません。

「うちは現場が強い」なんていうのは、社会の変化がゆるやかで、一定の労働人口が確保できていた時代にのみ成立した幻想です。

労働人口が減り、VUCAと言われるほど変化が激しく先の見通しが難しい時代において、現場の強み、タクミの存在意義は急速に低下しつつあります。低下しているというよりも、タクミ自身がボトルネックになってしまっていると言った方が適切でしょうか。

タクミの根幹にあるのは暗黙知です。自分でもうまく言語化できない、でも出来る。言語化できないから、業務の引き継ぎもできずに、仕事を抱えてしまう。それで回っているうちはいいが・・・というのがよくみる光景です。

まさに属人化なのですが、この状態で1番困るのがデジタルへの移行です。現時点でのデジタル化は誰かの仕事を奪うのではなく、業務をスムーズにしたり、ミスを減らしたり、担当者の負担を減らすことがメインの役割ですが、タクミが暗黙知として抱えていることは誰もデジタル化できません

デジタル(システム)は合理的で曖昧さがないことが強みですが、人間は柔軟でひらめきがあり、総合的に判断ができます。その人間の強みをそのままデジタル化することは不可能なので、タクミがやっていることをデジタル化するためには、まずはその要素をきちんと分解し、業務の要件定義をしなければいけないのです。

言うは易し行うは難しで、これができる人は多くありません。だからこそ、私が「業務設計士」などと名乗れているわけですが、タクミに依存し続けるとその継続性のリスクだけでなく、デジタル化もできなくなるというのは知っておいてほしいことの1つです。

「DX!」という言葉に釣られて、最新のツールの導入を検討する前に、タクミに依存した状態から脱却し、業務をシクミ化し、標準化していく。多くの広告などには書かれていませんが、よほど業務が標準化されている企業でなければ、このステップを飛ばしてしまうと、DXどころかツールの導入そのものが頓挫するでしょう。

2.シクミとタクミの両立

タスク管理の基本は「処理可能なサイズまでタスクを分割していくこと(いわゆる「タスク分解」)」です。これができていないと、いざタスクを処理しようとする段階になって、準備(情報や材料)が不足していることに気づいて大慌てする、ということが起こります。

タクミのシクミ化も基本は同じです。タクミのやっていることをいかに適切に分解(分析)して、シクミに落とし込むか。

私は業務設計士として、タクミから業務内容をヒアリングしながらホワイトボードでフロー図などを書きながら整理して、全体の業務要件を定義し、それをタクミや現場の方と再度すり合わせた上で、業務の設計図を作成していました。そこの内容の合意が取れた後、ようやく、「あるべき業務プロセスの構築とシステム導入の検討」に移行します。

ホワイトボード、Power Point、Excel、Wordなどを駆使してこれらの工程を行っていたわけですが、設計フェーズはまだいいのですが、運用フェーズになると頑張って作成したものたちがどんどん形骸化していくことになり、いつも非常に虚しい想いにとらわれていました。

業務をきちんと可視化した上で、あるべき姿を定義し、そこに向けて業務を設計していく。これが重要であることは間違いないのですが、それを現場に落とし込んだ際の実際の運用と設計のギャップを補正し、設計に反映し続けることこそが業務設計の本質。なのですが、そこまでコンサルタントが関与し続けることも難しく、それらをコントロールできるツールがありません。

そういう経験を経て、開発したのがBYARDです。BPM(Businesse Process Management:ビジネスプロセスマネジメント)という分野がありますが、私としてはBPMのためのツールを作るのではなく、「業務」を「コード」のように扱える「業務版GitHub」を作ることが発想の出発点でした。それを作ることで、結果としてBPMが正しく実行管理されるのではないかと考えたのです。

タクミをタクミたらしめているのは暗黙知ですが、暗黙知のままでは組織のナレッジに落とし込めず、シクミになりません。SECIモデルでいうところの共同化や表出化をいかにスムーズにするかが鍵だと思っています。

フロー図、マニュアルの作成に加えて、口頭での補足説明、日々の業務の進捗管理をしながらフロー図とマニュアルを修正し続ける。この労力が非常に重いことに加えて、タクミからすると「自分でやった方が早い」ですし、共同化や表出化をきちんとやっても評価されるわけではないので、優先順位が下がります。その負の連鎖を断ち切るために考案したのがBYARDのストリームでした。

ワークフローツールでもなく、BPMツールでもなく、タスク管理ツールやプロジェクト管理ツールでもない「ストリーム」という概念は、タクミのシクミ化をするために既存のツール(スプレッドシートも含む)に足りないところを補うものです。

作って終わりではないのが業務設計の基本ですが、そもそも作る労力、そしてそれを運用・改善する労力を減らさない限り業務設計は絵に描いた餅に成り下がってしまいます。こういう想いをもって開発したプロダクトなので、長らく「業務設計プラットフォーム」という風に紹介していたのですが、最近「オペレーション・マネジメントツール」というかたちに変更しました。

様々なお客様とお話しする中で、もちろん設計も大事なのですが、本質は日々の運用(オペレーション)の中にこそあるということに気付いたからこその変更です。BPMよりも更に現場に近しいオペレーション・マネジメントという分野における唯一無二のプロダクトがBYARDである、という風に再定義しました。

繰り返しますが、タクミの存在を否定しているわけではありません。特にスタートアップの初期などはなにも整っていない環境の中で、タクミが縦横無尽に活躍しなければそもそも業務が回っていかないでしょう。ただ、その状態は組織規模が小さい場合でしか許容されませんし、タクミの暗黙知を形式知に昇華(シクミ化)しない限り、事業の拡大フェーズにおいてオペレーションの混乱が足を引っ張ることになりかねません。

オペレーション=誰がやっても同じようにできる=AIに代替できる、というのはあまりにも暴論です。人間には簡単にできるオペレーションが、システムに置き換えるのが難しい、という例はいくらでもあります。どちらが優れているかではなく、得意なことが違うというのが実態でしょう。

AIにすべて代替させないとしても、デジタル化していく過程ではいずれにしてもタクミがやっている業務は共有可能な形で表出化(可視化・構造化)されなければいけません。そのプロセスは省略できませんし、既存のツールではうまくできない、というペインを解決するためにBYARDが存在します。

最近は業務設計はもちろんのこと、現場に落とし込んだ後の「オペレーションの統制」のためのお問い合わせが増えています。絵に描いた餅ではなく、設計したものをきちんと運用するところまで考えた上でツールを選択する必要性がようやく理解されてきたのかもしれません。

タクミは永遠ではありません。タクミが現役のうちにシクミに落とし込めるかどうか、がこれから人口が減っていくことが確定的な日本において、かなり重要なことになると私は考えています。

BYARDのご紹介

BYARDはツールを提供するだけでなく、初期の業務設計コンサルティングをしっかり伴走させていただきますので、自社の業務プロセスが確実に可視化され、オペレーション・マネジメントのための土台を早期に整えることができます。

BYARDはマニュアルやフロー図を作るのではなく、「オペレーションを統制する」ことによって、業務の品質やスピードを向上させ、収益向上やコスト削減を実現するという価値を提供するサービスです。業務課題の整理からご相談が可能ですので、ぜひお気軽にお問い合わせください。


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武内俊介@業務設計士
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