華厳が東ノ国の経済を憂う
10月28日(土) 東ノ国 神界
朝日の登りかける頃、神界に響くほどの大きな物音で目を覚ました迦琉は、物音のした場所へと駆け付けた。そこは富を司る女神、華厳の部屋であった。
「おばさんどうしたの!大丈夫?」
間もなく部屋の扉が開くと、そこには仁王立ちする華厳の姿がある。部屋のあちこちには物が散乱していた。
迦琉がその形相を前に立ちすくむ。
「どういうことか説明しなさい。」
華厳はそう言って釈明を求めた。
「は…い?」
迦琉は驚いた表情のまま、口角を不自然に釣り上げた。
華厳は富を司る女神の仕事として、人間界の経済が発展するよう見まもらねばならない。その華厳がいうには、ついに東ノ国の世界経済ランキングが4位に転落したそうなのだ。詳しく聞けば、もはや3位以下はどんぐりの背比べで、このままいけば最下位転落も時間の問題だという。
「あの…、そうなったら、どうなるんですか。」
迦琉が恐る恐る尋ねる。
華厳が部屋に散乱していたひとつの箱にむけ、華麗な蹴りを放つと、その箱は窓の外へと勢いよく飛び、人間界のほうに落ちていった。
「…何か、落ちましたが。」
「プレゼント。人間たちに。」
「何が…、入っていたのでしょうか。」
華厳の怒りは治る気配がない。迦琉の肩に止まっていた九官鳥の仔飛魯《こひろ》が騒いでいる。
「一体どうしてそのようなことに…。」
「詐欺に成功する自信をギラつかす若者、働き損を悟り仕事を辞めた大黒柱、寄生されて喜ぶ会社、不成長を理由に搾取するゆとり、人気取り目的の魅力ない大人、間違いを正当化するための社会、紙切れと化したお金、人の価値を貶めた子供の反抗、騙された裁判所。どいつもこいつも…!」
「それは…昔から…」
華厳には、もう迦琉の言葉が耳に入る様子もない。
迦琉は、そろそろ天罰かなあ、などと考えながら、静かに華厳の部屋をあとにした。