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【キイロ/キイロノ】きみどりいろのきいろのばななじゅーす(希望の郷 東村山)

東京都東村山市にある、『希望の郷 東村山』。
ここは、東京都社会福祉事業団が運営する福祉施設で、入所を中心とした福祉サービスを行う。

3年前に私たちのことを以前から知っていたこの施設の職員が、私にメールで打診してきてからこの希望の郷との、ご縁ははじまった。

ここには、常設の福祉施設内にアトリエがあり、毎週水曜日の午後、アーティストが入り絵画活動を行っている。

実はこの施設が長年やってきた『からんどりえ展』は今のアーティストの前に入っていた南椌椌(くうくう)さんが関わっていたときにできた活動。その南さんが当時運営していたレストランで働いていた友人からの紹介で、もう20年ほど前からこの場の存在はたまたま知っていた、私。

その長い間に私たちは繋がることなく、今回、この職員さんのコーディネートのお陰で私たちはこの場とつながることができた。
(ものすごい、深いご縁)

ここに現在も毎月2回通っているアーティストの二人、渡邊知樹氏、尾関立子氏。そして、時々撮影している、カメラマンの添田康平氏。

この3人のサポートによって、このアトリエの活動はすでに充実した貴重な場になっていた。

添田氏が撮影編集したアトリエの動画

もはや、この状況が都内では私の知る限りかなり意義深く、充実し、贅沢。これは外に発信しなくてはならない価値のあるアトリエとなっていた。

そして、私たちが頼まれたのは、これらの歴史もある活動をカタチにして見せるデザインの話。カレンダーやグッズのブラッシュアップを頼まれた。

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この場でまず行ったことは、現状把握、課題出し。そこから必要なグランドデザインを構築していく。

そこで見えたのは、主に3つ。

〇課題
・この施設の福祉サービスの主な内容が、入所施設であることから、商品をつくるとか、外部に出ていくことなどに、内部で通常のサービスの主眼にないということ。

・24時間体制職員が動いているために、なかなか揃って時間を共有することも少なく、とにかく忙しい。
こうした活動には関わってる職員さんだけが興味関心があって、他の職員さんにはなかなかこの場の価値が伝わらない。

・そして、こんなに充実したサポート体制でこの場があることを、内部の方たちに評価してもらえないということが残念だということが一番の課題として上がった。

photo by Kohei Soeda

そのために、どんな共有の仕方があるのかを一番意識しながら、始まったコロナ禍のこの場のブランディング。

〇デザインを入れる目的の提案
・目的
内部の職員さんたちに愛着を持ってもらえること
活動名、ブランド名を皆で構築すること。

・手段
ブランド名を希望の郷ならではの、エピソードや要素などから編み出      し、文字を沢山の利用者さんに書いてもらうことで、絵画活動に関わっていない職員さんたちが主体的に関わるようにする 

こうした私たちの提案により、以下の案が現場の職員から上がった。

『キイロノイロノ』 
    キイロ=活動名
    キイロノ=ブランド名

→「きみどりいろのきいろのばななじゅーす」のエピソード

Sさんはポケモンやおじゃる丸などのアニメの好きな20代の男性。
彼は、アニメのキャラクターをまるで見本がそばにあるかのように描くことができるという才能が有ります。また、様々なジュースを描いたボトルやタクシーなど1つテーマに則って40分間に何枚もの絵を描かれます。
時々、「電話を貸してください」ゆっくり走ってきて、「Sさんの家に、きいろいバナナジュースを3個お願いします。」とどこかに注文しているかのような素振りも見られます。
お習字も好きなSさんが書き上げた習字の作品、「きみどりいろのきいろのばななじゅーす」。こちらの文字がとても人の心を打ち、この作品をヒントに、希望の郷のブランド名は、「キイロノ」、絵画活動は「キイロ」になった。

Sさんの言葉に「の」が重複して出てくるようになった最近のこと。その「の」の一文字に独自の世界観が現れてるような気がしている。

キイロノ「キ」
・利用者のみなさんに希望の郷に愛着を感じてほしい。職員も含めて、誇りを持って働ける場に創り上げていこう。

キイロノ「イロ」
・希望の郷での活動や生活を通して、たくさんの色を感じ、大切にしながら多様性を重んじる体験をたくさん積み重ねよう。

キイロノ「ノ」
・独自の世界観を持つ自閉症の方々へのリスペクトの象徴

パンフレット(表紙)
パンフレット(中)
パンフレット(裏)

希望の郷は、キイロの絵画活動と出来上がった作品があくまでも主軸で、キイロノで作る印刷物やグッズはその素晴らしさを伝えるための媒体と考えています。 作品を使って作るモノは、特にそれを邪魔しないようなグラフィックにすること。 またパンフレットなどは絵画活動の場の空気感が伝わるよう、意識しています。 希望の郷はカメラマンが入っていて、ちゃんとその場を捉えたいい写真があるので、とても助けられています。

デザイン担当:林よしえ

1年目、こうしてブランド名、活動名、パンフレット、カレンダー、Tシャツのデザインができた。

2022年版 カレンダー
オリジナルTシャツのカタログ

2年目も、1年目の続きでカレンダー、グッズ、カタログが更新された。

2023年版 カレンダー

3年目は、カレンダーの製作は継続した上に、久しぶりに外部のお客さまを招いて、展示販売会が行われた。

2024年版 カレンダー
DM(表)
DM(裏)
施設内に展示
販売の様子
廊下に作品を展示
休憩スペースも設置
アトリエ内で絵画体験


この間に、このブランディングの会議に、主体的、自律的に職員が参画し、アジェンダ、スケジューリングの資料作成が引きあがり、外部のサポートだけではなく、内部のサポーターもしっかり目線が合うようになり、アーティストたちもかなりやりやすくなったと聞く。

デザインについても、アーティスト2人との協働で、グラフィック的な作業とアートの視点がうまく協奏されたモノに仕上り、年々引きあがっている。

施設内でも、キイロを知っていただくことの難しさは感じています。普段目にしている利用者さんの姿と、キイロの作品が結びつかないのは、やはりキイロに関わる職員が限定され、絵画室やそこでの雰囲気、作品が生まれる様子を実際に目にしたり、感じることが少ないからだと思っています。キイロやキイロノが、利用者さんをもっと知っていただく橋渡しの役割を担うことができたら嬉しいです。それが少しずつ浸透していけば、絵画にあまり興味のない方でも、キイロの自由さやそもそもの作品の素晴らしさを誇りに感じてもらえると思います。

希望の郷 職員の声

名前がついたり、ロゴがあると、色んな人の目に止まって、気になってくれたり…感想を持ってくれたり…活動を知ってもらえるきっかけに繋がっていくのかなと思います。

希望の郷 職員の声

この重度行動障害のある方たちも多く通う施設の役割は、世の中で大変大きな存在であることは間違いない。そこで働く、スキルの高い職員たちのポテンシャルの高さも、本当にもっと社会の中で脚光を浴びてほしいと思う。

こうした場に、表現活動の場があることは、否定的なコミュニケーションも肯定的に捉える機会になり、真逆の評価がそこに言葉としても生まれる。

障害のあると言われている本人たちは、他人を困らせようと思って起こす行動ではなく、衝動的、無意識であることばかりではなく、人の気を引くコミュニケーションの一つだったりするはずで、そこが肯定的に担保されるという1つにこの場がある。

そして、肯定的に自分の表現が捉えられた時に生まれた余白みたいなものから、本人の中でまた新たなフェーズが現れ、次の表現に向かったり、変化していくこともあり得る。

そこに沢山自分も表現していて、沢山の作品を見てきたアーティストたちがそばにいて評価できることから、その内部のレクリエーションを超えて、社会化されていくきっかけができることの大きな役割は、内部だけでは捉えきれない。

そこで、私のようなものが外につないでみようと思い、今回noteにまとめてみた。

この先、この場でできた作品やグッズを発表するだけではなく、この場で起きているサポーターの動きや気持ちの変化などについても伝えていきたい。

それは、世の中にたくさんあるこうした表現活動の場のヒントに繋がればいいと思うのと、外部にある地域や企業などがこうした活動の価値を知り、協力してくれることも意図している。

中だけの充実ではなく、社会につなぎ、循環を起こしてこそ、福祉の現場にいる障害のある人たちの存在自体がきっかけになってポンプのように押し出される衝動につながり、好循環がうまれるものと思うから。


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