気まぐれな天使
商業施設のテラスで昔の歌手の記事を読んでいたら近くで歩幅の小さい足音が止まった気がして顔を上げると4歳くらいの男の子が立っていた
愛らしいその姿に顔が自然に緩む。それが合図になったのか「へへ」とも「きゃっきゃ」とも違う、太陽のように明るい声と共に私の腕に飛びかかり、楽しそうに私のかけていたサングラスに手を伸ばした。
絶対に支えてくれると飛び込んだ迷いのない重みに、不意の私はバランスを崩して片手に持っていたコーヒーを落としそうになり、刹那 気を取られた。コーヒーをしっかりと持ち体勢を立て直し、腕の重さがあった方に目をやると、帽子に隠された少年のすがたが少し寂しそうにみえた。
1秒も満たない間にどんな変化が起きたのか私に理解する時間を与えないまま、少年はまた走り出した。
私のことなど1度も知らなかったかのように。
その後もしばらく座ってみたものの、天使の気まぐれには2度目がないことを知っていた。私もかつて天使だった時感じた、知っている感覚。それが一体どんな気持ちだったのか思い出せないまま、ベンチを立った。