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四十五話「お祓いは済ませましたか?」

 Fさんが同窓会の二次会で飲んでいたときのこと。そういえば・・・と話題にあがったものがあった。

 それは裏山の道路わき、うしろにはうっそうと森が生い茂るなかに設置された、『お祓いは済ませましたか?』と縦文字で書かれた看板であった。

 その字面のインパクト、昼夜問わず人の寄りつかないその雰囲気から、学生時代は軽い肝試しの舞台になっていた。

 酒の勢いもあって、いま看板はどうなっているのか、当時の気持ちに戻って”肝試し”にいったそうだ。


 記憶と携帯のライトを頼りに看板のある場所までたどり着いた。
 かつてより一層と、乱雑に生い茂る緑のなか、ライトに照られた看板は『お祓いを済ませましたか?』の質問文を囲むように

はいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはい

 ・・・と『はい』の文字がひしめき合っていた。


「アレをみてからいいことないんだよ」
 淀んだ赤ら顔で、濁った目をしたFさんはグラスを空にした。

「誰が『あの看板をみにいこうなんて』言い出したのか覚えてねーけど、俺、担ぎ込まれた気がするんだよね」
「なんていうか、『お祓いの肩代わりにされた』っていうのかな・・・」

 酔っぱらって呂律が回らなくなったFさんは、それ以上まともに喋れそうになかったので、タクシーを呼んで帰っていった。


 たまたま閉店間際の居酒屋で、偶然相席になったFと名乗る男からそんな話を聞かされたNさんは、(酒の席で妙なこと話すやつもいるなあ・・・)と酔いどれ気分でお会計を済ませ、店の扉を後ろ手に閉めたとき

「アレ、あの人の記憶ちがいですよ」

 聞いた覚えのない声で後ろから囁かれたという。


 そのときね、ぼく、思わず「はい!?」って答えたからこうして無事なのかもね。
 そんな風にNさんは上機嫌で語ってくれた。