音楽用語『アーバン』を止めたのは何のためだったのか?
BLM運動の真っただ中の2020年6月8日
アリアナ・グランデやドレイクを擁する有力レコード・レーベル「リパブリック(Republic)」が公式Instagramで次のように発表しました
当社では音楽用語としての『アーバン(Urban)』を今後一切使用しません
これを受けて グラミー賞を主催するレコーディング・アカデミーも「アーバンの使用をやめます」との発表しました
そもそも『アーバン』というフレーズは?
1970年代中盤 当時人気ラジオDJ:フランキー・クロッカーが
『アーバン・コンテンポラリー(Urban Contemporary)』
として使用した「ラジオ局の選曲方針」のが始まりと言われています
BLM運動の最中で この『アーバン』が取り上げられたのは
『アーバン』は音楽業界では 黒人音楽の総称(JazzからBluesからR&BからHip Hopなど)だけでなく『黒人を大雑把にまとめてしまう言葉』として使用されるようになっていったことから
『アーバン』=差別の温床になるかもしれない(なっている?)
との理由だと思います
レイス・レコード
マミー・スミスの♬Crazy Blues♬は 1920年8月8日に発売され ハーレム地区で大ヒット シカゴ フィラデルフィアでも売り上げを伸ばしました
このヒットに伴って
音楽産業側は戦略的な『ジム・クロウ法』に沿った市場の分断による売り込みを進め『人種』の分断を更に深める手法をとりました
1920年代頃から
黒人用は『レイス・レコード(race record) race=人種』
白人用は『オールドタイム(orヒルビリー)・レコード』
と呼ばれて区別されます
レコード大手会社は シリアル・ナンバーもカタログも二分させていたので 各レコード店でもこの分類に従って それぞれの曲のレコードがジャンル分けされて売られることになります
ジャズとブルースの融合
1940年代アメリカ全土のレコード売上の85%はスウィング・ミュージックが占めていましたが ビッグバンドの形態も変化していき
『ホンカー』:パワフルに吹きまくるサックス奏者
『シャウター』:パワフルなサックスに負けないヴォーカル
などが現れるようになっていくジャズとブルースが融合した新しい形態の音楽が大衆に受け入れられるようになってきました
音楽ですら人種差別的に扱われていることに違和感を感じたビルボード誌編集者のジェリー・ウェクスラーは
「レイスを使った名前で呼ぶ時代じゃないだろう」という考えから
『Rhythm&Blues (R&B)』と表現することを提案
1949年から『R&Bチャート』がスタートしました
1969年:ビルボード誌は『R&B』から『ソウル』に呼び方に変更
1978年:レコード・ワールド誌は『R&B』を『ブラック・オリエンテッド』に変更(キャッシュ・ボックスは1980年に変更)
1982年:ビルボード誌は『ソウル』を『ブラック・シングルス』『ブラック』『ブラック・コンテンポラリー』という呼び方に変更
1990年:ビルボード誌は『R&B』に戻します
白人の方がレコードが売れるマーケット構造
1950年代の音楽業界は『黒人アーティストの曲の盗用&カバー』を行って 白人が黒人を踏み台にして儲けるパターンを確立させていきます
パット・ブーンは 黒人アーティストによるシングル曲のカバーを数多く発表して有名になった白人アーティストの一人です
歌い手とリスナーの大半が黒人であれば『R&B』
歌い手とオーディエンスが白人であれば『ポップ』
に分類されるという音楽業界
エタ・ジェイムス(黒人)の「ウォールフラワー」は40万枚を売り上げ
ジョージア・ギブス(白人)によるカヴァーのセールスは100万枚を超え
白人歌手によるカバーは より強固な流通チャネルとメジャーレーベルの宣伝力によって オリジナルの黒人よりも大ヒットするケースが珍しくありませんでした
ポリティカル・コレクトネス
アメリカ音楽業界は いつの時代でも最新の音楽に最新の単語をあてはめて その単語が一段落すると次の新しい単語で置き換えることをやってきました
『ポリティカル・コレクトネス(以下「ポリコレ」と略す)』とは
社会の特定のグループのメンバーに不快感や不利益を与えないように意図された政策または対策などを表す言葉の総称であり 人種、信条、性別などの違いによる偏見や差別を含まない中立的な表現や用語を用いることを指す。政治的妥当性とも言われる。(引用:Wikipedia)
グラミー賞の「最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム部門」を「最優秀プログレッシブR&Bアルバム部門」に改名されました
マーケティングの観点から『アーバン』という単語は使われるようになり 『ジャンル分け』は白人の事情によって行われてきたものです
あくまでも個人的見解ですが 『アーバン』という言葉を使用しないことで他の単語に変えたとしても『ポリコレ』として表面を取り繕うだけのことに過ぎないと思います
『特権』を持っている人の利権が絡む
「隔離と不平等に根ざしたマーケティング構造」
がある限り 問題の本質=人種差別問題 は何も解決しないでしょう
『マ・レイニーのブラックボトム』
1920年代のシカゴを舞台に、「ブルースの母」と称される実在の歌手マ・レイニーと彼女を取り巻く人々を描いたNetflixオリジナル映画
『マ・レイニーのブラックボトム』
「ブラックボトム」:1920年代のアメリカで流行した腰振りダンスのこと
マ・レイニーは自分の音楽を追い求めて 白人社会から搾取の対象にされてきた苦い経験から白人に対する傍若無人な態度
トランペッターのレヴィーは 大衆に受ける音楽を追い求めてスターになりたいとの思いから 白人に表面的には媚びへつらう『面従腹背』
二人とも「白人から敬意を払われることは絶対にない」という思いは同じなのですが、、、
ネタバレになるのでストーリーに関しては書きませんが
実質的には今の音楽業界も同じ状況なのでしょう
まとめ
『ポリコレ』は 建前上「多文化主義を標榜する」のですが現実的 には「言葉狩り」です
意図しない『潜在的な偏見』は”ねちっこく”て消すのは難しいものです
白人の間にも黒人の間にもそれぞれ様々な『偏見』があります
これらの『偏見』は薄まることはあっても決してなくなることはないでしょう