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ニューヨークの『キャバレー・カード』とジャズ・アーティスト

1926年にニューヨークで制定された『キャバレー法』とは?

許可証を持たない飲食店で一般客を踊らせることを禁止するものです。禁酒法時代に酒類の密売や暴力を防ぐ目的で作られましたが、91年間も続きました。この法律は、ダンスや音楽の文化を抑圧するものとして批判されていました。2017年にようやく廃止されました。


『キャバレー法』が制定された背景は?

黒人と白人が交流することを快く思わない人種差別的な意図があったことは否めません。
そして、保守層の公の場でダンスすることに対する宗教的な反発もあったと考えられています。

制定当初は主にハーレムのジャズ・クラブが摘発の対象となっていました。禁酒法時代に大繁盛した『スピーク・イージー(モグリ酒場)』を統括するために、ニューヨーク市がひねり出した苦肉の条例で、そもそもは店の営業許可制度でした。

1940年代に労働組合運動が活発となり『キャバレー法』は、従業員の就業許可制度になっていきました。


『キャバレー・カード』とは?

調理師やウエイターだけでなく、出演ダンサー・ミュージシャン・コメディアンも『キャバレー・カード』を取得しないと働けない就業許可書(1940年から1967年まで存在)
前科者や麻薬中毒者にカードは支給されません。

ニューヨークのアルコール販売局が関わりながら実質的な審査と発行はNY市警(発行手数料は警察年金基金にまわすというシステム)

ニューヨーク市警は、見せしめ的に黒人が住む地域を取締りの標的にして、麻薬中毒になっていったジャズ・アーティストを薬物所持で摘発し『キャバレー・カード』を剥奪して仕事をできなくしていきます。

1946年:当時主要ジャズ雑誌の人気投票では常に1位だったJ.J.ジョンソンは「注射針」が発見されて逮捕(司法取引に応じて実刑は免れる)キャバレー・カード剥奪

1947年5月:ビリー・ホリデイはフィラデルフィアで、ヘロイン所持で逮捕され1年間の懲役刑

1951年:チャーリー・パーカーはキャバレー・カードを剥奪

1951年:セロニアス・モンクは無実ながらバド・パウエルをかばってキャバレー・カードを剥奪


間違った『三段論法』が広がる

「バードはジャズの天才だ。バードはヘロインなしでは生きていけない。ゆえに、ヘロインはジャズの天才になくてはならないものだという三段論法」(引用:ハリー・シャピロ著書『ドラッグinジャズ』)

バードやビリー・ホリデイというジャズのヒーロー&ヒロインが「最高のプレイ」を与えてくれるのは、”ヘロイン”のおかげで、”ヘロイン”こそが、自分の音楽の力を増進させるといった、間違った『三段論法』がジャズ・アーティストのドラッグ神話の根拠にもなってしまいました。


1949年12月15日 ブロードウェイ52ndストリートにクラブ『バードランド(Birdland)』オープン

店名は、チャーリー・パーカーのニックネーム「バード」にちなんでいます。

店内でのライブは、ピー・ウィー・マーケットの司会・進行で行われ、
生中継ラジオのDJは、シンフォニー・シド

  エヴァ・ガードナー、ゲイリー・クーパー、マリリン・モンロー 
  マレーネ・ディートリヒなどの著名人が集う世界一のジャズ・クラブ

クラブ・オーナー兼仕掛人は【モーリス・レヴィ】
イタリア系犯罪組織マフィア「コーサ・ノストラ」管下のジェノヴェーゼの部下で音楽エンタメ部門を仕切った幹部

モーリス・レヴィは、著作権法を逆手に取って「パトリシア・ミュージック」という音楽出版社を設立して、バードランドで初演される楽曲の著作権を全て取得する「アーティストからロイヤルティをだまし取った悪名高い詐欺師」でもありました。

1940年代中期以降 NYが他の都市よりヘロインが入手しやすかった背景には、マフィアの存在がありました。

「ヘロインはNYのストリートでアスピリンよりずっと手軽に買える」

阿片が、トルコなどでモルヒネに加工されて、マルセイユでヘロインに精製して、ニューヨークに密輸されていました。



マフィアは麻薬密売によって多額の利益を得ており、ジャズ・ミュージシャンたちは自由な生活を送るために、マフィアのクラブで演奏を行い、その代わりに保護や資金援助を受けていました。

また、マフィアがジャズ・レコードの製作や販売に関わっていたこともあり、マフィアが音楽産業に進出して、ビジネスを拡大しようとした結果であると言われています。

つまり、マフィアはジャズ・ミュージシャンたちにとっては支援者でもあり、同時に彼らの活動を脅かす存在でもあったわけです。これは、『飴と鞭』のような相互補完関係と例えることができます。

一方で、マフィアによる麻薬密売は、ニューヨークの社会に深刻な影響を与えたことは言うまでもありません。



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