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⑤『ジョジョの奇妙な冒険』feat.Steely Dan

第3部「スターダストクルセイダース」に登場する敵スタンド使い
タロットカードの「恋人(The Lovers)」を象徴しDIOに雇われた刺客の一人
鋼入りのダン”

彼の名前の元ネタは、独特なサウンドと斬新な音楽性で知られるアメリカのロックバンド
「スティーリー・ダン(Steely Dan)」

Steely Danの音楽的スタイル

Steely Danは、ドナルド・フェイゲン(Donald Fagen)とウォルター・ベッカー(Walter Becker)によって結成され、1970年代に絶大な人気を博したアメリカのロックバンドです。


彼らの音楽は、ジャズ、ロック、ファンク、R&Bなど様々なジャンルが混ざり合った高度なクロスオーバースタイルで、独特な歌詞と複雑なメロディーが特徴です。
一見キャッチーでありながらも、皮肉や社会風刺が込められた内容で、多くのリスナーを魅了しつつも、簡単に理解しきれない奥深さを持っています。

Steely Danという風変わりな名前の由来は、アメリカの作家ウィリアム・S・バロウズの小説『裸のランチ(Naked Lunch)』に登場する“スティーリー・ダン III世”という特殊な道具から取られています。


「表と裏の顔」の共通性

"鋼入りのダン"は一見すると、愛嬌のある振る舞いで自分を小さく見せますが、その裏には冷酷で狡猾な性格が潜んでおり、他人の精神に入り込んで操作しようとする卑劣なスタンド「恋人(The Lovers)」を使います。

「恋人(The Lovers)」は、一般的に『愛や調和』『絆』といった意味を持つと同時に、「二面性」や「他者との関係性」を強調するものであり、"鋼入りのダン"のスタンド能力が単に攻撃的でなく、精神的な支配を伴うもので「表と裏」の顔が感じられます。

単なる見かけや一面だけでその本質がわからないように「表と裏」を使い分けるキャラクターは、Steely Danの音楽性と重なります。



Steely Danの音楽は、ポップで聴きやすいメロディーでありながら、歌詞には毒のあるメッセージが込められていることが多いです。

この「毒と甘さのバランス」がSteely Danの特徴であり、彼らの音楽は一見すると楽しく明るい印象を与えるものの、じっくりと歌詞を読み解くと暗く冷徹なテーマが現れることが多々あります。

荒木飛呂彦先生は、”鋼入りのダン”をSteely Danにちなんだキャラクターとして描くことで、その「巧妙さ」や「二面性」を表現したのかもしれません。


Steely Danと日本との繋がり


1977年にリリースされたSteely Dan6枚目のアルバム『Aja』

このアルバムのジャケットには、1970年代から80年代にかけて国際的に活躍していた日本人モデルの『山口小夜子』が起用されています。


『Aja』のアルバムカバーで彼女が見せる控えめでクールな表情は、Steely Danの音楽と見事に調和し、アルバムのイメージを象徴するものとして広く知られています。


再結成してライブ活動を再開したSteely Danの大規模な2000年日本ツアーの大阪公演は、大阪国際会議場(グランキューブ大阪)こけら落としライブでした。

また、2007年8月に東京ミッドタウン内にオープンした『ビルボードライブ東京』のこけら落とし公演もSteely Danです。

彼らの楽曲がどれだけ日本のリスナーに深く浸透していたかを象徴しています。



荒木飛呂彦先生の作品作りとSteely Danの音楽との共通点

完璧主義の制作プロセス

Steely Danのスタジオでの完璧主義が有名で、メンバー自身が納得するまで何度も録音を繰り返しました。彼らはトップクラスのミュージシャンを雇い、理想のサウンドを追求するために何十回ものテイクを重ね、時には何日もかけて1曲を完成させることもありました。

アルバム『Aja』の制作では、ギタリストがソロを演奏するために何時間も費やし、フェイゲンとベッカーが最高のテイクを探し求める様子が逸話として語られています。


同様に、荒木先生も一つ一つの場面において独自のこだわりを見せ、ストーリーやキャラクターの構築に細心の注意を払います。
荒木先生は、自らが納得するまでシーンやキャラクターを練り直し、その完成度に妥協することはありません。

特にスタンド戦における構造や心理描写は、荒木先生が納得するまで追求を続ける完璧主義の表れであり、Steely Danが追い求めた音楽制作のプロセスと通じるものがあります。



皮肉や社会批判のメッセージ

Steely Danの歌詞は、皮肉や社会批判に満ちており、彼らの楽曲にはアメリカ社会や音楽業界に対する風刺が巧妙に描かれています。

例えば、彼らの2枚目のアルバム『Countdown to Ecstasy』からのシングル・カット「Show Biz Kids」では
「彼らはやりたい放題で、金に不自由しない」
とショービズの裏側や富裕層の生活を皮肉った歌詞が登場し、音楽業界の暗部やアメリカ社会の矛盾を表現しています。


荒木先生も、しばしば日本社会や人間関係の暗い一面が描かれており、物語の中で時折表れるシニカルな描写には、社会に対する冷静な観察が感じられます。

例えば、DIOのようなカリスマ的存在が人間の欲望を操作し、支配する構図は、社会における力と支配の関係に対する批判的視点とも取れます。

また、敵キャラクターにみられる欲望や妄執は、人間関係に潜む利己的な一面を暗示しており、Steely Danの楽曲が描く人間関係の歪みや人生の皮肉と共鳴しています。


まとめ

”鋼入りのダン”の性格やスタンド能力には、Steely Danの音楽が持つシニカルで皮肉に満ちた要素が反映されています。

「ラバーズ」というスタンドは、Steely Danの音楽が暗示する「複雑で歪んだ愛や関係性」との共通点が見られます。

荒木飛呂彦先生は、Steely Danの独特な音楽性と「恋人」というタロットカードの暗示を巧みに組み合わせ、"鋼入りのダン"をただの悪役以上に奥深いキャラクターとしたのです。


補 足

前述のバンド名由来となっている小説『裸のランチ(Naked Lunch)』に登場する特殊な道具は?

男性器の張型「Steely Dan III from Yokohama

ここにも”Yokohama(横浜)”=日本 との関係があったのです。


次号へ続く



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