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写真集&写真展「岩からのメッセージ」で伝えたかったアンビバレンス
「石の領界」からのリイマジネーション
たぶん、石には石の結界、あるいは眷属、王国のようなものが、あるにちがいない。
・・・・・・(略)・・・・・・
石は克明に伝えているのに、人はそれを解しきらない。
石は正しく語っているのに、人はその真相に迫れない。
そういう人智の外なる言葉、謎の言葉を、石はまたおびただしく開陳する。
そこが、たいへんめざましく、亢奮的な風姿である。
石は石の時空に生きて、ときに人の領界を凌ぐ天や地の姿を垣間見せるところが、恐ろしい。
1987年以降京都市&下関市で写真展「岩からのメッセージ」開催されました。
当時、下関市出身の小説家:赤江 瀑 氏(1933/4/22~2012/6/8)が、清水 恒治 氏が撮った下記写真にインスパイアされて贈ってくれた随筆が「石の領界」です。
![](https://assets.st-note.com/img/1732061615-HNfUaQe6yt5hYpbE8VFJKiBR.jpg?width=1200)
今回の北九州市での開催は、写真集「岩からのメッセージ(「石からの領界」を掲載)」の発売に伴い、リイマジネーション(新創造:基本設定だけを残した新たな写真展)として開催しました。
![](https://assets.st-note.com/img/1732062234-0UaAwgpem3VyGkzs9bEcQOtN.jpg?width=1200)
「石の領界」を多くの人に読んでもらって何かを感じとってもらいたい
この企画は、単なる作品展示にとどまらず、北九州市全体を「平尾台」という視点で捉え直し、地域の魅力を再考する提案として位置づけたものでした。
![](https://assets.st-note.com/img/1732154914-uFxa9RPnktlK7BM8DwZ6oNSr.jpg?width=1200)
写真にタイトルはいらない
写真集の制作にあたり、編集者としての私は、全ての写真にタイトルをつけて、その写真からインスパイアした短歌や短文を添えた第1案を提案しました。
![](https://assets.st-note.com/img/1732155353-OoxB0MPlsH9gGYrfNAR2CTqZ.jpg?width=1200)
この提案を踏まえて、清水恒治氏は静かに話し始めました。
写真を通じて、私は岩が持つ静謐で不変の美しさを捉えることができますが、その意義は私が決めるものではありません。
それぞれの観る人が持つ感情、思い出、そして感受性が、写真一枚一枚に新たな命を吹き込む。この写真集は、閉鎖されたものではなく、それぞれの人が感じ思うことが、真の意義、真の価値を創造できるものにしたいのです。
この話を聞いて私は気づきました。
写真にタイトルをつけることは、観る人に”先入観”を押し付けてしまう。
神秘的な美しさや怖さ、岩の言葉の解読、何らかの感動や新たな発見
そして自分自身の内面と向き合う”きっかけ”
全ては観る人の感性に委ねればいいのです。
![](https://assets.st-note.com/img/1732155353-rcMS68p3QlOWYeoD21NVnivx.jpg?width=1200)
一石を投じたかった
出版業界へ
日本の出版業界は、①出版社 ②取次 ③書店 の分業で成り立っています。
その他にも、装丁や挿絵・イラストなどを作るデザイナー、本を印刷・製本してくれる印刷所など、多くの人が関わっている業界です。
出版方法は、主に次の3種類
「商業出版」:出版社が発行にかかる費用を負担する方式
「自費出版」:著者自身が発行にかかる費用を負担する方式
「協力(共同)出版」:著者と出版社が発行にかかる費用を負担しあう方式
本は通常、出版社が作ったものを「取次会社」と呼ばれる業者が書店に届ける仕組みになっています。(日販(日本出版販売)とトーハンの2社で市場の80%近くを占めています。)
日本独特の制度
『委託販売制度』:書店は本を仕入れて販売しますが、売れ残った本は出版社に返品することができます。(世界では『買い切り制度』が一般的)
『再販売価格維持制度』:書店が出版社が決めた価格でしか本を売れないという制度
近年、若者の活字離れやインターネットの普及により、紙の本を読む人が減り、本を売る書店も減少していて、この20年間で市場規模は半分近くまで縮小しているのも関わらず、日本独特の商慣習はアップデートされていません。
この状況下において、「商業出版」は、著者の知名度や売上見込みが大きく問われ、実現がますます難しく、「自費出版」でも高額な費用が必要で、多くの在庫を抱えるリスクが伴うのは明らかです。
カネと時間がかかるだけで、本当に作りたいものが出来ないのでは?
出版社(者)の主な機能は「編集」「宣伝」「流通」でしょう。
よくよく考えると、自分たちでも出来る範囲のことが多いのです。
餅屋は餅屋。知恵と工夫があれば低コストでやれるんじゃない?
我々の「岩からのメッセージ」Projectは、あらゆる中間マージンや人件費を削減して、Amazon KDPを活用した写真集出版に踏み切ったのです。
「編集」:写真家自身が写真集の内容を完全にコントロールし、作品の意図をそのまま表現(サポート役はフィルム写真を現像する写真店)
AIのフル活用:例えば英語版「Whispers of Stone」の英訳など
「宣伝」:各種案内文(SNS・メール・手紙・情宣物)は、AIで作成したものをベースにしてアレンジ。PVはiPhoneと編集アプリで完結。
「流通」:Amazonを通じた国内外での販売(出版に必要な在庫を抱える必要がなく、注文が入るごとに印刷・発送される(POD)形式)
地方行政へ
従来の社会常識に挑み「買う理由」をつくりだす黄金律
1.おおやけ・・・・「社会性」の担保
2.ばったり・・・・「偶然性」の演出
3.おすみつき・・・「信頼性」の確保
4.そもそも・・・・「普遍性」の視座
5.しみじみ・・・・「当事者性」の情勢
6.かけてとく・・・「機知性」の発揮
日本有数のカルスト台地である平尾台の魅力を再発見してもらいたい
約40年前に撮影されたフィルム写真を収めた写真集を発表し、さらに写真展を開催しました。
写真展で見えた来場者の関心
「平尾台にこんな場所があったなんて知らなかった」
「歴史的にも貴重な写真がこんなに残されていたなんて」
といった驚きの声が多数寄せられました。
さらに、「ぜひ平尾台を訪れてみたい」という具体的な行動意欲を示す感想もありました。
これらの反応は、平尾台という自然遺産が多くの人に知られていないこと、そして潜在的な関心や期待が高いことを証明しています。
行政の姿勢と現状の課題
一方で、今回の取り組みを行政に伝えた際の反応は非常に冷淡でした。
「どこの馬の骨かわからない」といった視線や、やっつけ仕事で視察に訪れた市役所の課長が写真を真剣に見ることなく、我々の話に耳を傾けることもなく帰る姿勢には、落胆を隠せませんでした。
地方創生・活性化にむけて必死なはずの行政が、他地域の成功事例のコピー&ペースト施策に終始し、結果としてオーバーツーリズムを引き起こす懸念や保身から規制だらけにしてしまうなどの現状に疑問を感じます。
外部者を呼び込む「来て来て施策」が不要とは申しませんが、そろそろ真剣に「地元民の流出を防ぐ施策」「地元民がブラッシュアップできる施策」が重要なのではないでしょうか?
平尾台は「社会性」「偶然性」「信頼性」「普遍性」「当事者性」「機知性」という6つの黄金律に合致した、観光だけでなく地域文化の深い理解につなげる題材です。
「岩からのメッセージ」は、「平尾台」という地域資源の普遍的な価値を深掘りし、北九州の未来に新たな視座を提供しようという提案です。
今回の写真展は、ただの観光地ではない平尾台の価値を感じてもらう場として少しは機能したと自負しています。
写真展会場イメージPV(こちらをクリック)
![](https://assets.st-note.com/img/1732154070-5TiFq1uohQjxKtAOkvrPV8eb.jpg?width=1200)
伝えたかったアンビバレンス(Ambivalence)
アンビバレンスとは、1つの対象や状況に対して相反する感情や考えを同時に抱く状態を指します。心理学や哲学、日常の感情表現において使われる言葉で、「矛盾する思いが共存する」ことを表現します。
語源はラテン語の「ambi(両方)」と「valentia(力)」で、「両方向の力が働いている」という意味があります。
アンビバレンスは、私たちの日常や感情に深く根ざした概念です。
「矛盾する感情があるのはおかしい」と思いがちですが、むしろ人間らしい自然な感覚です。
新しいことに挑戦したいけど不安
新しい仕事や環境にワクワクする気持ちと、失敗への恐れが共存している状態もアンビバレンスです。
好きだけど嫌い
好きな食べ物をたくさん食べたいと思うけれど、「食べ過ぎると太る」という心配もあり、食べたい気持ち(ポジティブ)と控えたい気持ち(ネガティブ)が同時に存在します。
人は愛情や憎しみといった正反対の感情を同じ人に対して抱くことがあり、これが人間関係の複雑さを生むと考えられています。
それぞれの「正義」がぶつかり合うと「対立」が生じます。
自分の「正義」を主張するだけで偏った「在るべき論」を押し付け合っていては絶対に解決しません。
『相手の「正義」の”なぜ?”を認めよう」というところから始めてみるしかないのです。
「アンビバレンス」という概念を理解することで、自分や他人の感情の複雑さを受け入れ、より深い理解を得ることができるはずです。
最後に
私たちは、平尾台の魅力を通じて、北九州という地域全体をもう一度見つめ直し、アートの力を借りて、持続可能な地域活性化のモデルを築いていきたいと考えています。
平尾台はただの観光地ではありません。
その石灰岩が刻む美しい風景や歴史は、北九州の文化遺産として、地域のアイデンティティを再構築する鍵となる自然が創造したアート展示場です。
アートは、「感性の技術」「最先端の思考法」を教えてくれます。
「今、何が問われているのか?」
「課題は何なのか?」
皆さまの知恵と力をお借りできれば幸いです。
d³ Gallery(ディーキューブギャラリー)様へ
写真展「岩からのメッセージ」の開催にあたり、素晴らしい空間をご提供いただき、誠にありがとうございました。
貴ギャラリーの温かな雰囲気と素晴らしい環境のおかげで、多くの方々に平尾台の写真をご覧いただくことができました。
また、来場者の皆様からも「会場が作品の雰囲気とよく合っている」と大変ご好評をいただきました。
このような貴重な機会をいただけたことに、心より感謝申し上げます。