PERFECT DAYS
ルーティーンを大事にするトイレ清掃人の慎ましくも美しい暮らしが、他人の干渉によってぐらついたり、かけがえのないもになったりする話です。
ヴィム・ヴェンダース版「東京物語」
役所広司さん演じる主人公の名前は「平山」で、これはヴェンダースさんが敬愛する小津さんの「東京物語」と同じですね。
ドイツ人が日本で、日本語の映画を作るというのはかなり大変だったと思うのですが(あなたがドイツで、ドイツ語の映画を現地のキャストで作ることを想像してみてください)、平山を「口下手」にすることによりセリフを極力少なくする、という手法でうまく乗り切っています。
でも、なんか不思議なんですよね。ぼくらが知ってる東京の風景とちょっと違って見えるんですよ。「ロスト・イン・トランスレーション」なんかもそうだけど、外国人から見た東京はどこか別の世界に見えますよね。それがこの映画独特の「浮遊感」みたいなものにつながっているように思います。
トイレ清掃人の手は汚いのか?
いくつものトイレを清掃するシーンが出てきますが、一番最初のシーンで平山は素手でゴミ拾いなどしているんですね。で、そのまま素手でしばらく清掃して、途中からようやく手袋をします。
見てて、あれ手袋しないのかな?なんて思ったりして。
次のシーンでは、トイレに隠れている少年を発見し、手をつないでお母さんを探してあげるのですが、母が飛んできて、礼も言わずにウェットティッシュで少年の手を拭くんですよ。なんか嫌な感じだなと思いつつ、自分も同じような見方を平山にしていたのではないかと思わされる。
そういう無意識の偏見にさらされているキャラクターであるとまず提示される。
ルーティーンは極まると時計がいらない
平山はとても几帳面で、玄関に財布や鍵といった持ち物を綺麗に並べているのですが、その中の腕時計は仕事には付けていかない。なんなら目覚まし時計もない。毎日やることも時間も決まっているから必要ないんですね。
逆に休みの日は腕時計を付けるのが面白い。休みの日も洗濯して、現像して、文庫本買って、行きつけの店で酒飲んで・・っていうルーティーンはあるのですが、もうちょっと自由度があるのかもしれないですね。
孤独を抱えた人たち
平山は後輩に「寂しくないんすか?」とストレートに聞かれます。
文庫とカセットテープ、少しの植木、毎日の朝日と木漏れ日。
いきつけの店で言ってもらえる「おかえりなさい」。
同じような毎日の、同じではないちょっとした出来事を大事に、丁寧に生きている。
そんな平山の生き方は共感できるものであったけれど、同時にとてつもなく寂しい感じもしました。
姪が訪ねてきて、彼女の写真を撮るときのやさしい表情。本当は家族とか、大事な人がいたんだけど、事情があって一緒にはいないのかな、と思わされるんですよね。
ほかのちょっとしたシーンでそんな人たちが沢山出てくる。
神社でひとり飯を食うOLの人生に幸あれと願う。
もう一つの主役「THE TOKYO TOILET」
風変わりな公衆トイレが多数登場しますが、渋谷区のプロジェクトで生まれたトイレ群なんですね。有名な建築家、デザイナーの方々によるものです。あの独特の存在感が映画をすこし特別なものにしている感じがします。ああいう風に掃除してくれるクルーが実際にいるということも忘れないでおきたいですね。
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