【2023アイスホッケー女子世界選手権】第3戦「カナダvs日本」レポート
取材・文・写真/アイスプレスジャパン編集部
IIHF女子世界選手権トップディビジョン
会場:CAAセンター(カナダ・ブロンプトン)
グループA予選リーグ 第3戦(現地4/8 19:00FaceOff. )
日本 0(0-2、0-2、0-1)5 カナダ
ショットオンゴール(SOG):日本11、カナダ60
女子アイスホッケーの”レジェンド”も成長を認めた。日本、納得の「敗戦」
女子アイスホッケー界のレジェンドの1人であるカナダ代表キャプテン・Marie-Philip Poulinも試合後、日本の成長を認めた試合だった。
0‐5の敗戦、という記録は残る。
でもそれ以上に、日本はついにここまで強くなったか、という実感を大切にしたい。
1990年にIIHF主催の公式大会として初開催された女子世界選手権に日本が参加してから33年。長野オリンピックから25年。
世界ランク1位のカナダに、それも相手のホームアイスでここまで堂々と戦えるようになったことを、日本の女子アイスホッケーはもっともっと誇って良いとしみじみ感じさせられた。そんなカナダ・CAAセンターでの試合だった。
満員の会場がカナダを後押しするなか、必死の抵抗
イースターホリデーで街はお休み。そしてカナダが登場することもあって、この日のCAAセンターには大勢のファンが詰めかけて熱気に満ちあふれていた。特に、女子カナダ代表の選手たちにあこがれているとおぼしき少女アイスホッケープレイヤーもたくさんの声援を送っていて元気な声がリンクにこだましていた。
そんなホームでの熱狂的な後押しを受けてリンクに登場したカナダは第1ピリオドから容赦なく日本へと襲い掛かる。
試合開始直後からプレーはほぼリンクの片側、日本のディフェンディングゾーンで行われ、日本としてはとにかく必死で守るしかない状況に陥った。
そんななか早くも開始1分でカナダのシュートがゴールネットを揺らす。
歓声が一気に巻き起こり、カナダのファンたちはさっそく大興奮の様子でチームカナダへのスタンディングオベーションが巻き起こる。
しかし、ここで日本ベンチが動く。レフェリーを呼び、ビデオチャレンジを要求。
「シュートの瞬間、カナダの選手がゴールクリーズに入っていたのではないかとチャレンジしました。確信もありましたし、チャレンジしてもほぼ大丈夫な確率で行けるだろう、と。立ち上がりの時間帯でもあったのでね」(飯塚祐司監督)
およそ2分ほどのチェック時間を終えて、レフェリーが出した結論は「ノーゴール」。カナダの勢いをそいだうえに、日本選手のメンタルも落ち着かせることができたベンチの好判断が光った。
ベンチワークも含め抵抗する日本に、カナダが強烈な”レッスン”
この判定で少しは流れが向いて、なんとか第1ピリオドを無失点で終えらたいともくろむ日本。しかしそこで攻撃力をさらにアップしてくるカナダはさすがだった。
昨日行われたカナダvsチェコの試合で、代表通算100ゴールという金字塔に到達したカナダのキャプテン・Marie-Philip Poulinが、ゴール正面へみずから突進。ふわりとした動きで日本DFのマークを簡単に振り払ったあとはゴール裏まで滑りぬけてGKの意識を完全に自分に向けてから、正面で待ち構えていたBrianne JENNNERに完ぺきなバックパス。
それをJENNNERがこれまた見事なパックさばきでゴールへデリバリー。
どちらのプレーも世界レベルでもう「まいりました」というしかない一撃。日本は3分56秒にカナダの先制点を許してしまう。
さらに8分03秒にはリバウンドをSarah FILLIERにたたかれて追加点を奪われた日本。しかし、そこからスマイルジャパンは少しずつではあるが本来の戦い方を取り戻していく。
防戦一方ではありながらも、相手のマークを外さずに食らいつくなど、徐々にトップ選手たちの動きにも対応できるようになる。
19分過ぎにはカウンターからの良い形で志賀紅音(しがあかね/TOYOTAシグナス)がこの試合初めてとなるシュートをカナダゴールへ。第2ピリオドへの期待がふくらんだ。
GK増原から川口へ予定通りのスイッチ。
しかし第2ピリオドも先に得点したのはカナダ。この試合初となるパワープレーのチャンスであっさりとDFからの長いシュートが決まり3‐0。ただ、この頃には日本もだいぶ動けるようにはなっていた。
日本はほぼ試合の中間点となる8分48秒にGK先発の増原海夕(ますはらみゆう/道路建設ペリグリン)から川口莉子(かわぐちりこ/Daishin)へチェンジ。これはプラン通りの交代だったが、その川口は安定したゴールテンディングを見せて、ベンチの期待にしっかりプレーで応えた。
第2ピリオド終盤の失点はゴールポストで跳ねたパックが脚の裏側に当たるという不運な形に見えたが、川口は「1点目のバックドアで決められたシュートはもっともっと自分のプレーを磨いていれば止められたプレーだったと思います。次(準々決勝以降)で戦う相手かもしれないので、次はもっと失点を少なくしていきたい」と反省も忘れてはいない。
↓カナダ4点目SPOONERのゴール
第3ピリオドは20分を1失点で切り抜けた川口。増原&川口両GKが合わせてカナダには質の高いシュートを雨あられと60本も打たれたが、日本のこの夜の失点は5。昨年8月の対戦では0‐9だったカナダとの差を4点縮めて試合を終えることができたことは、成長のあかしとしてポジティブにとらえたいと思う。
カナダの”レジェンド”も、日本の成長を評価
試合後のミックスゾーン。
バリバリの現役でありながらも、女子アイスホッケー界のレジェンドとして世界中の選手たちから敬愛されているカナダのキャプテン・POULINも日本の印象について率直に話してくれた。
「素晴らしい試合…楽しい試合でした。明らかに日本はとても良いプレーをしていました。ゴールキーパーは素晴らしいセーブをしていましたし、60本のシュートは簡単ではなかったと思いますがハードにプレーしていました。強い意志で私たちに抵抗していたと思います。それは私たちのためにとっても素晴らしかったことです」
そして最後に「日本は去年よりも…そうですね、日本チームは年々良くなっています。対戦するたびに日本のプレーぶりを見て、グループとしてプレーできているし、しっかりした構造、形を持っていると感じました。日本は今夜もそれを見せてくれました」と付け加えてくれた。
この試合は世界ランク1位のカナダに対して日本がどこまで良い内容を見せられるか、という位置づけともいえた。
スマイルジャパンの選手たちは第1ピリオドこそ防戦一方だったものの、第2、3ピリオドでは何度か相手のゴールを脅かしつつ最終的には11本のショットオンゴールを記録。カナダと対戦することで、スピード感やシュートの高い技術に対応する力などを一段引き上げてもらった感もある。終わった後の選手たちの表情も、敗れはしたものの決して暗くなかったところはポジティブなしるしとしてとらえたい。
こうやって真剣勝負で世界のトップクラスと対戦できる経験は、間違いなくスマイルジャパンのなかに財産となって積みあがっていくもの。そういう意味ではカナダとの試合はいいレッスンであり、プレゼントでもあった。
1日の休養日をはさみ、次戦はグループリーグ最終戦となる対スイス戦が組まれている。
<日本vsスイス戦は現地4/10 15時~ ※日本時間4/11午前4時~>
スイスに60分勝ちができればグループAで2強に次ぐ3位になれる可能性もある。またスイスに対してはなぜかここまで相性が良くなく、いい試合をしても僅差で敗れることがずっと続いてきたが、ついにその呪縛を破るときが来たのかもしれない。
目標とするベスト4進出を実現するために、この夜にカナダから受けとった“プレゼント”をぜひスイス戦に活かしてもらいたい。
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